記憶を支える「睡眠」の整え方
受験生の間でよくあるのが、「睡眠時間を削ってでも勉強時間を確保しなければならない」という誤った思い込みです。しかし、睡眠時間を削り続けることは、学習効率を下げる原因になりかねません。
睡眠は単なる「休息」ではなく「記憶の整理時間」
まず大前提として知っておくべきなのは、睡眠は単に疲れた脳と身体を休ませるだけの時間ではないということです。睡眠中は、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しながら、日中に学習した情報の整理や記憶の定着に関わる過程が進むと考えられています。
レム睡眠は睡眠の後半に増えるため、睡眠時間を極端に削ると、こうした記憶に関わる睡眠の過程も十分に確保しにくくなります。
睡眠時間は「7〜8時間程度」をひとつの目安に
では、具体的に何時間眠るのがよいのでしょうか。必要な睡眠時間には個人差がありますが、受験期は7〜8時間程度をひとつの目安にしつつ、日中の眠気や起床時の状態を見ながら、自分に合った睡眠時間を確保することが大切です。
また、睡眠時間だけでなく、毎日の就寝・起床時間を大きく乱さず、安定した生活リズムをつくることも意識しましょう。
睡眠不足がもたらす「記憶力低下」と「不安の増大」
逆に、睡眠不足が続くと、記憶や集中力に影響が出やすくなります。それだけでなく、睡眠不足は「精神的な不安定さ」や「不安感」を増大させる大きな要因となります。
受験が近づくにつれて「不安で押しつぶされそうになる」「なんだかやる気が出ない」と感じるときは、睡眠不足が不安感や気分の不安定さに影響している可能性もあります。
1日徹夜で頑張る日があったとしても、それを何日も続けて睡眠時間を削り続けることは、百害あって一利なしです。
自称「ショートスリーパー」の罠
「自分はショートスリーパーだから、1日4時間の睡眠でも大丈夫」と豪語する受験生もいますが、これも危険な罠です。
本当に短い睡眠時間でも日中の機能を保てる人はごく少数とされています。短時間睡眠に慣れているつもりでも、慢性的な睡眠不足に自分で気づきにくくなっている場合があります。
まずはしっかりと十分な睡眠を取ることを、受験生活の最優先事項として設定しましょう。
昼寝の正しい取り方と「生活リズム」の調整
長時間の受験勉強において、日中に眠気を感じることは誰にでもあります。眠い目をこすりながら無理に机に向かうくらいなら、短時間の「昼寝(仮眠)」をとることは、集中力を立て直す方法の一つです。しかし、昼寝にも正しい取り方があります。
昼寝は「20分程度まで」を目安に
昼寝をする際は、「20分程度まで」をひとつの目安にしましょう。長く眠ると深い睡眠に入り、起床後に頭がぼーっとしやすくなることがあります。また、長い昼寝や遅い時間の昼寝は、夜の寝つきに影響することもあります。
眠気を感じたら、机に伏せたり、アラームをセットしたりして、深い眠りに入る前にサッと起きる「パワーナップ(積極的仮眠)」を取り入れましょう。
夜の睡眠が確保できていることが「大前提」
夕方や学校から帰宅した後に「毎日必ず眠くなって数時間寝てしまう」という生徒がいますが、これには注意が必要です。
もちろん、成長期の思春期は脳も身体も発達段階にあり、学校生活でエネルギーを大量に消費するため、眠くなること自体は自然な生理現象です。夜に十分な睡眠を取った上で、それでも学校から帰宅後に眠気を感じ、15~20分程度リフレッシュのために仮眠をとる分には、大きな問題はありません。
しかし、「夜更かしをして睡眠時間が足りていないから、夕方に眠くなる」という場合は話が別です。この場合は、夕方に寝る習慣を断ち切り、夜の睡眠時間をしっかりと確保する方向に生活をシフトさせなければなりません。
「夜型」から「朝型」へのシフトはいつすべきか
「夜の方が静かで集中できる」という夜型の生徒も多くいます。人にはクロノタイプ(朝型・夜型といった体内時計のタイプ)の違いがあるため、無理に朝型へ変えればよいとは限りません。
しかし、大学入試の試験本番は「朝から昼間」にかけて行われます。夜中の3時に試験をしてくれる大学はありません。
受験という目標を達成するためには、最終的には、試験が行われる午前の時間帯に集中しやすい状態をつくっておく必要があります。朝食や身支度の時間も考え、試験開始の3時間前を目安に余裕をもって起床するとよいでしょう。
人間の身体のリズムは1日や2日では簡単には変わりません。そのため、試験本番の3ヶ月前、できれば半年前までには、少しずつ起床時間を早め、本番のスケジュールに合わせた「朝型」の生活リズムへと移行させていく必要があります。
光(色温度)を調整して睡眠を妨げにくい環境をつくる
私たちが生活する上で欠かせない「光(照明)」は、目覚めやすさや睡眠にも影響します。
「蛍光灯」などの白い光は日中の活動に向く
日本の一般的な家庭や学校、塾などでは、明るく白い光を放つ「蛍光灯」や「白色LED」が多く使われています。
日中や夕方の勉強では、手元が暗くならないよう、十分な明るさを確保することが大切です。一方で、夜遅い時間まで強い光を浴び続けると、寝つきに影響することがあります。
寝る前は「暖色系の光」に切り替える
問題となるのは、「就寝前」の光の環境です。
夜遅くまで真っ白で明るい光の下で勉強し続け、そこからすぐにお風呂に入って布団に入ったとしても、明るい光を浴びた直後は、活動モードから切り替わりにくく、寝つきに影響することがあります。
夜に向けて照明を少しずつ落とし、刺激の少ない環境に切り替えていくことは、就寝前の過ごし方として取り入れやすい方法です。
したがって、理想的な学習環境を作るためには、就寝時間の3時間ほど前(遅くとも1〜2時間前)からは、部屋の照明を白っぽい光から、少しオレンジがかった「暖色系の光(色温度の低い光)」に切り替えるのが効果的です。
夜の後半戦の勉強では、少し照明を落とし、暖色系の光に切り替えることで、就寝前の環境を整えやすくなります。
長時間の勉強を支える「姿勢」
「勉強中の姿勢」も、長時間の学習を続ける上で見逃せないポイントです。
姿勢の悪さは首・肩の負担や疲労につながる
長時間机に向かっていると、どうしても猫背になったり、首が前に突き出た不自然な姿勢になったりしがちです。
姿勢が悪くなると、首や肩の筋肉が緊張して硬くなり、極度の肩こりや首こりを引き起こし、頭痛の原因にもなります。首や肩の緊張が続くと、痛みや頭痛、疲労感につながり、勉強に集中しづらくなることがあります。
さらに、こうした身体的な疲労は翌日にも持ち越されるため、「なんだか毎日だるい」「集中できない」という負のループを生み出します。
理想は「野球の守備」のような姿勢
一部の東大生などは「椅子に背もたれは要らない」「常に前のめりで勉強する」と言うこともありますが、これは必ずしも全員に当てはまる正解ではありません。
人間の骨格や背骨の形、筋力には個人差があるため、無理に特定の姿勢を何時間も維持しようとすると、かえって特定の部位に負担が集中してしまいます。
目指したいのは、「身体はリラックスしているけれども、いつでも動ける形になっている状態」です。
例えるなら、野球の守備のような状態です。ボールが飛んでくるのを待っている時、ガチガチに力を入れて力んでいたら、いざという時に素早く動けません。かといって、ダラッと気を抜いて立っていても対応できません。
適度に力が抜けつつも、一本の芯が通っていつでも反応できる状態。勉強時の姿勢もこれと同じで、無理に背筋をピンと張り詰める必要はありませんが、骨盤を立てて自然なカーブを描き、首や腰に無理な負担がかからないフォームを維持することが重要です。
勉強の内容に合わせて姿勢を切り替える
また、「ずっと同じ姿勢でいなければならない」というルールもありません。
例えば、数学の難しい応用問題をカリカリと計算して解く時には、少し前のめりになって集中する姿勢が良いでしょう。しかし、その後に英単語や歴史の用語を暗記するフェーズに移った時には、椅子の背もたれに深くもたれかかり、リラックスした状態でパラパラと単語帳をめくる姿勢に切り替えても全く問題ありません。
疲労具合や学習内容(思考系か記憶系か)に合わせて、意図的に姿勢を変えることで、身体の特定の部位への負担を分散させることができ、結果的に長時間の学習が可能になります。
途中で眠くならないように、教室や自室など、安全な場所をゆっくり歩きながら覚えるのも、気分転換になります。
学習パフォーマンスを支える「腸内環境」と「食事のタイミング」
「何を食べるか」「いつ食べるか」という食生活も、学習中の体調や集中を支える重要な要素です。
塾通いによる食生活の乱れに注意
受験学年になると、学校の後に毎日塾の自習室に通うようになり、必然的に家で夕食をとる機会が減ってしまいます。
コンビニのおにぎりやカップラーメン、ファストフードばかりの生活が続くと、炭水化物(糖質)に偏り、ビタミンやミネラル、タンパク質、脂質などをバランスよくとりにくくなります。
受験期は身体の「成長期」でもあるため、特定の食品に偏らず、さまざまな食品から必要な栄養をとることが大切です。
外食が続く場合でも、野菜が入ったお惣菜やサラダを意識して選ぶ、あるいは家に帰ってから保護者が用意した野菜スープやおかずで不足分を補うなど、トータルでの栄養バランスを保つ工夫が求められます。
食事のタイミング:就寝の「2〜3時間前」に終わらせる
夜遅くまで塾で勉強する場合、夕食を塾で軽く済ませるか、それとも帰宅後に遅い時間から食べるか、という悩みが生じます。
睡眠への影響を考えると、本格的な食事は就寝の2〜3時間前までに食べ終えることを一つの目安にするとよいでしょう。
寝る直前にたくさんの食事をとると、胃もたれや寝つきの悪さにつながることがあります。さらに翌朝、胃もたれを起こして食欲が湧かず、朝食を抜いてしまうという悪循環に陥ります。
もし帰宅時間が夜の10時や11時になるのであれば、夕方の早い段階でしっかりとした食事をとり、帰宅後は軽めのものを少量にとどめる方法もあります。
勉強中の間食と「ブドウ糖」
ブドウ糖は、脳が利用する主なエネルギー源の一つです。
勉強の合間にブドウ糖でできているラムネを食べる学生が増えています。確かにラムネは血糖値を上げるうえで即効性は抜群です。
しかし、ブドウ糖でできたラムネを短時間でたくさん摂ると血糖値が急上昇し、インスリンのはたらきでその後に急降下する、いわゆる血糖値スパイクが起こり、その後に眠気や集中力の低下を感じることがあります。
そこで、高カカオチョコレートなど、糖質を一気にとりすぎにくい間食と使い分ける方法もあります。
普段の勉強では間食を少量にとどめ、模試の直前など必要な場面でラムネを2、3粒とるなど、摂りすぎない範囲で工夫するとよいでしょう。
受験のプレッシャーと「腸内環境」の防衛
もう一つ、受験生が軽視しがちなのが「腸内環境」です。
脳と腸は互いに影響し合うことが知られており、強いストレスを感じると、お腹が痛くなったり、下痢や便秘などの不調が出たりすることがあります。
入試本番でお腹が痛くなって実力が発揮できないという悲劇を防ぐためには、日頃から野菜(食物繊維)をしっかりとり、十分な睡眠を取るとともに、自分のお腹の調子を整えてくれる「ヨーグルトなどの乳酸菌(整腸作用のあるもの)」を日常的に摂取する習慣をつけておくことが重要です。
腸内環境は十人十色で、一人ひとり異なります。他人に合うヨーグルトが自分にも効果的だとは限りません。
日頃から自身に合うヨーグルトを見つけておくなど、自分に合う整腸食品を受験期の前から見つけておくことも、立派な受験対策の一つです。
学習環境と生活リズムを整える
大学受験は、膨大な知識を詰め込むだけの知能戦ではありません。自分の体調や生活リズムを整え、学習を安定して続けられる環境をつくることも大切です。
気合いやモチベーションはここ一番の時にはとても大切ですが、それに頼るだけではコンスタントな学習の積み上げがものをいう受験勉強をやり抜くことはできません。
こうした無理なく続けられる環境づくりを日々の生活に組み込み、当たり前の習慣にすること。それが、長い受験生活を最後まで走り抜くための大きな支えになります。
ぜひ、今日からあなたの「学習環境と生活リズム」を見直してみてください。
技術協力:片岡洋祐氏


