普通科で、いわゆる文系と理系の生徒の割合を同程度にする

 2026年2月13日、文部科学省は「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けた『N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想』~※」を発表しました。

※N-E.X.T.:New Education, New Excellence, New Transformation of High Schoolsの略

 この方針は、AIの進展や少子高齢化が加速する2040年頃の社会を見据え、高校教育の在り方を抜本的に見直すための指針です。その背景・必要性として、以下の3点が挙げられています。

  1. 労働力需給ギャップの解消:デジタル技術の急速な発展により、2040年には事務職が余剰となる一方、AI・ロボット関係などの理系人材が不足する。現在の人材供給トレンドが続けば、このギャップが一層深刻化すること。
  2. 自己実現の支援:予測困難な未来において、生徒一人ひとりの多様な個性や興味・関心に応じた学びを提供し、その可能性を広げて自己実現を支える必要があること。
  3. 社会基盤の強化:経済状況に左右されず、希望する進路(進学・就職)を選択できる環境を整えることが、個人の幸福とわが国の経済・社会基盤の強化につながること。

 この構想の具体的な目標の一つに、「普通科における文系と理系の生徒の割合を同程度にする」ことが掲げられています。今回は、この構想のうち「理数系人材育成支援」に焦点を当てて考えていきます。

理系人材の育成は国策

 国はこれまでも、「理系人材の育成」を強化してきました。

 25年前の2001年3月30日に閣議決定された「第2期科学技術基本計画」では、「科学技術の振興は未来への先行投資」として、知の創出と人材の育成が必要とされ、①基礎研究の推進、②国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー、エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティア)、③急速に発展し得る領域へ先見性と機動性を持って的確に対応する(例:ナノテクノロジー、ゲノム、バイオインフォマティクス、システム生物学、ナノバイオロジー)などが重要政策に盛り込まれました。

 また、高等学校教育段階でも2002年度から理科・数学等に重点を置いたカリキュラムの開発や、大学等との連携による先進的な理数系教育を実施する「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」が開始され、理数系教育を重点化する仕組みが整えられました

 そして2020年代に入り、2021年に高等教育をはじめとする教育の在り方について、国としての方向性を明確にする「教育未来創造会議」(教育再生実行会議の後継的な会議)を立ち上げ、2023年5月には「理系学生の割合を現在の約35%から、今後10年で50%程度まで引き上げる」という具体的な数値目標を掲げました。この動きに合わせて、文部科学省は「第4期教育振興基本計画」(2023年6月)において、自然科学(理系)分野を専攻する学生の割合を5割程度まで引き上げることを目指し、今後5~10年程度の期間に集中的に取り組みを推進すると、方針が示されました。

 また「大学・高専機能強化支援事業」を2023年から開始し、理系人材、高度情報専門人材の育成を目的に、学部・学科の改編・新設や定員増、機能強化が進められています。

「文系から理系へ」の構造転換は、産業界からの要請もあります。2026年3月に経済産業省経済産業政策局が発表した「2040年の就業構造推計(改訂版)について」では、専門職を中心に、大卒理系96万人・院卒理系27万人の不足が生じるリスクがある一方、AIの急速な発達などにより事務職の需要が減少し、大卒・院卒の文系人材は約80万人の余剰が生じる可能性が指摘されています。

理系選択者は増えているのか

【図1】は、文部科学省の「学校基本調査」をもとにした大学生(学部生)数の推移です。1990年から2023年にかけて、大学生の総数は198万8,572人から263万2,775人へと約64万人増加しました。

 しかし、理系学部(理学・工学・農学・医学・歯学)の学生数は、同期間で59万4,084人から61万6,258人へと、約2万人の増加にとどまっています。

【図1】関係学科別学部学生数の推移

【図1】関係学科別学部学生数の推移
※「学校基本調査」(文部科学省)をもとに東京個別指導学院が作成。

 その結果、学部生全体に占める理系学生の割合は、1990年の約30%から2023年には約23%へと低下しました。理系学生の「実数」は微増しているものの、大学進学率の上昇に伴う全体数の増加に追いつかず、相対的な「割合」は減少しているのが実態です。

 一方、経済的なメリットは明確です。独立行政法人経済産業研究所の分析「理系出身者と文系出身者の年収比較―JHPS・データに基づく分析結果―」(2011年)によると、理系出身者の平均年収(46歳時点)は600.99万円で、文系出身者の559.02万円を上回っています。さらに、年齢が上がるにつれて所得の上昇幅が大きくなる傾向も示されています。

 産業界からのニーズが高く、将来的な高年収も期待される理系人材ですが、なぜその割合は伸び悩んでいるのでしょうか。いくつかの要因を考察します。

理系への道は、高校選びから始まっている

 全体的な傾向として、高校の偏差値帯によって文理のコース選択状況に差が見られます。ベネッセコーポレーションの「学習基本調査(高校生版)」によると、偏差値45以上の学校群では、偏差値が高くなるほど「理系」を選択する生徒の比率が高まる傾向にあります。

 同調査の「授業の理解度」を見ると、高偏差値帯の学校ほど数学を「ほとんど理解している」「70%程度理解している」と回答する生徒の割合が高く、好きな教科に数学を挙げる生徒も増えます。これに伴い、難易度の高い「数学Ⅲ」や「物理」の履修予定者も高偏差値帯の学校ほど多くなります

 これは、難関大学(東京大学、東京科学大学、京都大学、医学部など)への志望者が多いことが影響しています。卒業生に理系分野の第一線で活躍するロールモデルが多く、在校生が刺激を受けやすい環境にあることも一因でしょう。

【表2】学校偏差値別の理系生徒の割合・履修予定科目

【表2】学校偏差値別の理系生徒の割合・履修予定科目
※「子どもの生活と学びに関する親子調査2024」(ベネッセ教育総合研究所)をもとに東京個別指導学院が作成。 「数学が好き」は「とても好き」と「まあ好き」の合計。数学理解度は「ほとんどわかっている」と「70%くらいわかっている」の合計です。

 また、高校数学の理解には中学校までの基礎学力が不可欠であり、義務教育段階での習熟度がその後の選択肢を左右している側面も否定できません。

 もちろん、偏差値が全てではありません。偏差値帯によらず理数教育に注力する学校がある一方で、有名私立(GMARCH付属校など)のように、大学側の設置学部定員の関係で理系比率が抑えられているケースもあります。

 しかし、将来的に理系の選択肢を確保しておきたいと考えるご家庭にとって、文理選択の傾向や授業の到達度を踏まえた「志望校選び」は、重要な視点の一つといえるでしょう。

文理選択は理数への好き嫌いで決まってしまう

 ベネッセ教育総合研究所の「子どもの生活と学びに関する親子調査2024」によると、「自分自身のことを『文系』と思うか、『理系』と思うか」という質問に対し、興味深い結果が出ています。

  • 小学4~6年生:文系志向(24.3%)に対し、理系志向(39.0%)が大きく上回る。
  • 中学生:文系志向(27.1%)に対し、理系志向(36.6%)と、その差が縮まる。
  • 高校生:文系志向(45.0%)が理系志向(36.9%)を逆転する。

 このように、学年が上がるにつれて「文系」を自認する生徒が増加する一方で、「理系」と答える割合はほとんど変化していません。

 では、なぜ高校進学を機に文系に進む生徒が増えるのでしょうか。

 公益社団法人日本理科教育振興協会の調査「令和6年度 高等学校 理系文系進路選択に関する調査結果」では、71%の高校が2年生から文理別の授業を実施していることがわかっています。つまり、高校1年生の段階で将来の選択を迫られることになります。国立教育政策研究所の調査「中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究」(2012年)でも、その選択時期は「高校1年生の2学期」に集中しているのが実態です。

 日本理科教育振興協会の調査によると、進路選択の判断基準(本人または相談による決定)は、①将来就きたい職業(42.9%)、②理数科目への興味・関心(27.7%)、③理数科目の得意・不得意(24.0%)の順となっています。理数科目に関する項目が全体の5割以上を占めているのです

 また、「理系を選択しない理由」としては、①理数が苦手・嫌い(48.4%)、②理数に興味・関心がない(22.9%)が圧倒的で、やはり理数科目への後ろ向きな意識が決定打となっています。これらのデータから、文系志向者の中には、積極的に文系を志望する生徒だけでなく、いわば「理数科目からの離脱」の結果として文系を選択した生徒も少なくないことがわかります

【図3】文系・理系進学者の文理志向の変化

⽂系進学者の⽂理志向の変化

⽂系進学者の⽂理志向の変化

⽂系進学者の⽂理志向の変化

※出典:経済産業省ウェブサイト

理系進学者の⽂理志向の変化

理系進学者の⽂理志向の変化

理系進学者の⽂理志向の変化

※出典:経済産業省ウェブサイト

 したがって、理系選択者を増やすための鍵は、高校1年生の1~2学期の間に「数学への苦手意識・拒否感」をいかに払拭するかにあります。数学からの離脱は、必然的に理科からの離脱にもつながるからです。

 現在、2030年度から段階的に実施される次期学習指導要領の改訂に向けた検討が進められています。その中で、高校1年生が学ぶ「数学Ⅰ」の改善案として注目されているのが「数学ガイダンス(仮称)」の設置です。

 この狙いは以下の通りです。

  1. 接続と全体像の把握:中学数学からのつながりを把握し、高度な数学や他分野との関係性を理解する。
  2. 社会との接点:高校までの学習内容が、実際の社会や仕事でどのように活用されているかを知る。
  3. 学びの見通し:微積分などの応用例を含め、高校数学全体の見取り図を示す。

 数学と社会・職業とのつながりが十分に理解されていない現状や、学習の全体像が見えにくいという課題に対し、こうしたガイダンス機能を設けることで「数学離脱者」を食い止めるという狙いがあるのです。

ライトな大学受験生は理系を志望するか?

 前項で紹介した「理系を選択しない理由」の第3位に挙がった「理系は科目数が多く負担が重い」という点について、筆者個人の実感としても、一般的に文系より理系のほうが受験勉強の負担は重いと感じます。

 ベネッセ教育総合研究所の「子どもの生活と学びに関する親子調査2024」によると、将来の進路として「大卒以上」を希望する高校生は74.4%、保護者は76.3%に達しています。実際の大学進学率57.7%(2023年度)を大きく上回り、多くの親子が大学進学を志向していることがわかります。

 一方で、勉強を「好き」と答える高校生の割合は減少傾向にあります。

【図4】将来の進路が「大卒以上」の割合

【図4】将来の進路が「大卒以上」の割合

将来の進路が「大卒以上」の割合

※「子どもの生活と学びに関する親子調査2024」(ベネッセ教育総合研究所)をもとに東京個別指導学院が作成。

【図5】勉強が「好き」な割合

【図5】勉強が「好き」な割合

勉強が「好き」な割合

※「子どもの生活と学びに関する親子調査2024」(ベネッセ教育総合研究所)をもとに東京個別指導学院が作成。

  同研究所の「高等学校の学習指導に関する調査2021」では、教員に対して「大学進学を希望する生徒のうち、努力しなくても入れる大学を選ぶ生徒の割合」を尋ねています。その結果、大学進学率が低い高校ほどその割合が高く、「学校推薦型・総合型選抜を早期から希望する生徒が増えた」と回答した割合は、大学進学率50%以上70%未満の中堅校で最も高くなっています(大学進学率50%未満の進路多様校では、従来から一般選抜ではなく推薦・総合型が中心だったため、増加率としては低く表れていると考えられます)。

【図6】高校群(4年生大学進学率)別の進学意識(進路指導を行っている教員)

【図6】高校群(4年生大学進学率)別の進学意識(進路指導を行っている教員)

高校群(4年生大学進学率)別の進学意識(進路指導を行っている教員)

※ベネッセ教育総合研究所「高等学校の学習指導に関する調査2021ダイジェスト版」をもとに東京個別指導学院が作成。 「とてもそう思う」+「まあそう思う」の比率。

 このように、高校生の中には「大学には行きたいが、特にやりたいことも決め切れておらず、受験対策もほどほどで行ける大学で構わない」という層(=いわゆる「ライトな大学受験生」)が一定数存在し、その割合は増加しています。中位クラスの高校生においては「専門学校に行くほどやりたいことが決まっていないから、とりあえず大学へ」というケースも少なくありません。

 明確な目的意識が薄い場合、入学後に実験やレポートに追われがちな理系学部は敬遠されがちです。入試の負担だけでなく、入学後の負荷も考慮すると、ライトな大学受験生にとって理系は選択肢に入りにくくなります

 現在の国内市場は深刻な人手不足であり、文系であっても就職に困ることはまれです。将来的に世界がどのような人材を求めているかという議論を知る高校生もいますが、ライトな受験層ほど、そこまで深く将来を見据えて志望先を検討している割合は少ないように感じます。

理系志向は⼩中学時に⼤きく固まる

 理系進学者に⼩中学時に学校・塾等で体験した実験・実習とその影響を尋ねたところ、⼩中学校における⽊⼯・⾦属作品製作、化学実験、⽣物実験・実習の実施率が高いことがわかります。また、化学実験、⽣物実験・実習は、⽂理選択・学科選択に影響を与えている度合いが⽐較的大きいといえます。さらに、電気・機械実験・実習、プログラミングやロボット実験・実習は、実施率は高くないものの⽂理選択・学科選択に与えている影響の度合いが大きいことがわかります。

【図7】⼩中学時に学校・塾等で体験した実験・実習とその影響(回答者:理系進学者)

【図7】⼩中学時に学校・塾等で体験した実験・実習とその影響(回答者:理系進学者)

⼩中学時に学校・塾等で体験した実験・実習とその影響(回答者:理系進学者)

※出典:経済産業省ウェブサイト。グラフ内の%は、体験した活動に占める文理選択・学科選択に影響を与えた割合を示します。

 理科好きの裾野を広げようと理数教育に注力する私立小中学校では、実験・観察の時間を大幅に拡充し、最新の器具を整備する動きが活発です。大学や企業の研究室を訪問し、学校内では体験できない高度なプログラムを取り入れる例も少なくありません。また、民間教育機関によるプログラミングやロボット、理科実験教室も、小学生対象のものを中心に盛んに実施されており、実体験を通じて理科への興味を育む一助となっています

 文部科学省の調査(「今後の科学技術・人材政策のための次世代人材育成等に係る基盤的調査分析」(⽂部科学省 令和6年度科学技術調査資料作成委託事業、三菱総合研究所2025年3月31日))によると、小学生時点から科学技術への興味・関心が変化した理由(低下した理由)として、「理科や算数・数学の授業が難しくなったから(49.2%)」が最多でした。次いで「授業以外で身近に科学技術に関わる機会がなかったから(19.7%)」「自分は理科や算数・数学に向いていないと思ったから(18.9%)」「理科や算数・数学の内容が面白いと思えなくなったから(15.9%)」の順になっています。

 今回の「高等教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けた『N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想』」は、文字通り高校教育の抜本的な改革を目指すものです。その意義に異論はありません。しかし、本稿で見てきた通り、「理系5割」という高い目標を実現するためには、高校段階の改革だけでは不十分です。将来の理系人材の芽を育むためにも、義務教育段階から理数好きを増やし、少なくとも「理数離れ」を食い止めるための実効性ある取り組みが不可欠といえるでしょう。