【図1】国公私立大学の入試状況・高等学校等卒業見込み生徒数推移
深刻な私立大学の定員割れ
中でも深刻なのが私立大学です。【図2】で示しているように、入学定員充足率は長期的に低下、定員割れ大学の割合の上昇という傾向が続いています。
【図2】私立大学の入学定員充足率と定員割れ大学の比率
1989年度には、定員割れ大学の割合はわずか4%でした。しかし1999年度以降、この割合は急速に増加します。主な要因は次の2点です。
1つ目は、18歳人口の減少です。1992年に約205万人でピークを迎えた18歳人口は、1999年には約150万人台まで減少しました。
2つ目は、大学設置基準の緩和です(「大学設置基準」最終改正:平成18年3月31日文部科学省令第11号)。これにより大学・学部の新設や、短期大学から4年制大学への改組が相次ぎ、入学定員そのものが増加しました。新設校や改組大学はブランド力の面で不利になりやすく、定員割れに陥りやすかったのです。
2005年度以降は、有名大学や都市部大学への志願者集中が進み、地方大学や特色の薄い大学の定員割れが増加しました。
ところが、2017年度から2020年度にかけては、定員割れ大学の割合が一時的に減少しています。これは、文部科学省が2016年度から段階的に導入した入学定員超過に対する補助金カット施策(27文科高第361号私振補第30号「平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知)」)の影響です。この施策は、特に東京23区など都市部の大規模大学への学生集中を抑え、地方私大の定員割れを防ぐことを目的としていました。その結果、大都市圏の大学が合格者数を絞り、地方大学や小規模大学の充足率が一時的に改善したのです。
2021・2022年度はコロナ禍の影響で受験者数が大きく減少し、再び定員割れ大学の割合が増加しました。
2023年度からは、入学定員超過に対する補助金カット施策ではなく、「4年間の総定員数(収容定員)」を基準にした判断へ施策が変更(4文科高第1221号私振補第78号「令和5年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱いについて(通知)」)されました。これにより、1年ごとの入学者数を厳密に調整するのではなく、4年間(学部によっては6年間)で入学者数の調整が可能になった都市部の有名大学が合格者数を増やし、地方大学や小規模大学を中心に再び定員割れが広がりました。
ただし新施策は、収容定員8,000人以上の大規模大学には、2023年度が1.30倍以上、2024年度1.20倍以上、2025年度は1.10倍以上と年々厳しくなるものでした(4文科高第1221号私振補第78号「令和5年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱いについて(通知)」)。この施策開始から3年目を迎えた2025年度入試では、一部の大規模大学で合格者数を抑える動きも見られました。
また、高校卒業見込み者が前年度より増加し、受験数が増えた反面、私立大学が募集人員を減らしたことや、「安全志向」から歩留まり率(合格者に占める入学者の割合)が改善されたことも重なって、定員を満たす大学の割合は増加しました。
2026年度入試でも、高等学校卒業見込み者数(ベネッセコーポレーション 2026年度入試 第2回出願指導WEB研究会 全国概況)が2025年度とほぼ変わらず、収容定員超過率に対する補助金カット施策が継続していることなどから、定員割れ私立大学の割合が急増する可能性は低いと筆者は予想しています。
ここまで見てきたように、定員割れ問題は文部科学省の施策や社会環境に左右されてきた面もあるのですが、大きな原因は、少子化による需要減少と入学定員数増加による供給過多にあります。
国公立大学も例外ではない
文部科学省の「令和7年度国公私立大学入学者選抜実施状況」における国公立大学の充足率は104%(募集人員130,732人、入学者数136,198人)で、定員割れには至っていません。
しかし、少子化による需要減少と、入学定員数増加という構造を考えると、将来的に国公立大学も定員割れに直面する可能性は高いと言えます。
【表3】1998年度と2025年度の大学受験の需給関係を見ると、①高校卒業者数は大幅に減少、②一方で大学の募集人員は増加、という「供給過多」の構造が明確になっています。
【表3】1998年度と2025年度の大学受験の需給関係
文部科学省の2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議(第7回)での「2040年の予想進学者数等」による将来推計(2021年基準)では、東京都ですら入学定員充足率が79.1%(国立:81.8%、公立:80.1%、私立:78.9%)、大阪府で75.3%(国立:75.3%、公立:75.1%、私立:75.3%)、青森県は57.7%(国立:59.0%、公立:60.6%、私立:55.5%)です。人口推移の地域間格差もありますが、都市部を含めて定員割れが常態化する未来が示されています。
また、文部科学省から示されていた、2021年時点での将来推計(関係データ集 令和6年7月19日版)では、2040年の18歳人口は「約82万人」、2043年は「約80万人」になると見込まれていました。しかし、朝日新聞の推計によると、2025年に国内で生まれた日本人の子どもは66万8千人程度(今年の出生数66万8千人程度、過去最少更新 朝日新聞推計 2025年12月23日)です。上記「2040年の予想進学者数等」による将来推計(2021年基準)よりも早いペースで少子化が進んでおり、「定員割れ問題」はさらに深刻だと言えるでしょう。
【表4】都府県別2040年度入学定員充足率推計と2025年度の私立大学定員充足率
文部科学省や財務省は「大学削減」へ方向転換
こうした状況を受け、文部科学省では「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」(令和7年4月18日 文部科学省高等教育局)で、次のような施策を打ち出しています。
・設置認可審査時の財産保有要件や、経営状況に関する要件を厳格化するなど財務基準を見直す。
・設置計画の履行が不十分な場合には、私学助成を減額または不交付(例:充足率が一定基準以下ならばペナルティーを科す)とする。
・大学等連携をより緊密に行うための仕組み(地域研究教育連携推進機構(仮称))を導入する。
・定員未充足や、財務状況が厳しい大学等を統合した場合のペナルティー措置を緩和(例:設置認可審査、私学助成等)する。
・再編・統合を行う大学等への支援(成長分野への学部転換等への支援強化や、実践事例の横展開)をする。
・収容定員の引き下げに対する大学等の、忌避感の緩和のための仕組み(定員削減を一時的に戻しやすくする)を構築する。
・縮小・撤退等の早期の経営判断を促す指導を強化する。
・卒業生の学籍情報の管理方策を構築する。
・残余財産帰属の要件を緩和する。
文科省だけではありません。財務省の諮問機関である財政制度等審議会の分科会で、2040年までに私大の約4割を削減する案が、2026年4月23日に提示されました。
つまり、大学数や定員を減らす方向へ明確に舵を切ったと言えます。
有名大学も生き残りをかけて
立命館大学は「学園ビジョンR2030 立命館大学チャレンジ・デザイン」で、首都圏・東海圏において立命館学園の附属校または提携校を設置し、その後の東北圏・九州圏での展開(現地拠点を通じた連携を含む)を視野に入れる構想を発表しています。そこでは「各附属校キャンパスや、各地域の研究拠点をサテライト型キャンパスとして、研究科または学部の学科・コースの一部や研究連携機能などを当該拠点に設け、地域課題解決に資する教育研究に取り組む」構想も示されており、実質的なキャンパス拡大構想と言えるでしょう。また、「海外キャンパス」設置地域の一部に提携校(小学校・中学校・高等学校)の設置構想もあります。
立命館大学新聞(2025年11月8日)では、首都圏で中高一貫教育を展開する検討を始め、首都圏の既存の中学・高校を提携校や附属校とすることも選択肢として挙がっていると報じています。前掲の「学園ビジョンR2030」では、「2030年において(現状ある*)四附属校から立命館大学への進学率80%を確保することは、立命館大学にとっての目標となる」とされており、附属校からの内部進学率を上げることも戦略としています。*( )内は筆者追記
さらに、立命館では「立命館未来探究高等学校(仮称)」という1学年最大500人を想定する広域通信制高校を2028年度に設ける構想があります。広域通信制とは、本校(京都府)以外の地域に住んでいる人でも入学することができる学校です。同校から内部進学の道も開かれる構想なので、全国から立命館大学への内部進学生を集めることができます。
明治大学は、東京都世田谷区の男子校だった日本学園を2026年4月より共学化・系列校化して、明治大学付属世田谷中学校・高等学校として開校しました。卒業生のおよそ7割(約200名)以上が、明治大学へ推薦入学試験によって進学できる教育体制の構築を目指しています。
法政大学は2026年03月25日に東京家政学院との連携強化を発表しました。2027年4月より東京家政学院中学校・高等学校は法政大学千代田三番町中学校・高等学校(仮称)に名称を変更し、法政大学の系列校となる予定です。女子校から男女共学化も検討され、法政大学への推薦枠も設置されます。
医療・生命科学の総合大学である北里大学は、東京都北区の順天中学校・高等学校を2026年4月に系列校化(2028年4⽉に法⼈合併予定)し、北⾥大学附属順天中学校・高等学校から医学部・薬学部を含む全9学部において内部進学枠を設定すると発表しています。
早稲田大学では、系属校である早稲田大阪高等学校や早稲田佐賀中学校・高等学校から早稲田大学への推薦枠を拡大しています。立教大学もキリスト教学校教育同盟加盟校を対象とした「キリスト教教育連携校」制度を導入し、推薦入試を開始します。
これらの動きは、中学校・高等学校教育の充実を図る目的も当然ありますが、優秀な生徒(将来の大学進学者)を早期から確保していきたいという大学側の戦略でもあると言えるでしょう。
また近年、新たな学部(学環)の設置が複数の有名大学において進行中です。
関西大学はビジネスデータサイエンス学部(2025年開設)、立教大学は環境学部(2026年開設)、立命館大学はデザイン・アート学部(2026年開設)を設置。また、中央大学はスポーツ情報学部(仮称、2027年開設予定)および情報農学部(仮称、2028年開設予定)、青山学院大学は統計データサイエンス学環(2027年開設予定)を設置する計画が進められています。さらに関西学院大学でも(2029年度以降)、王子公園新キャンパスにおける新学部構想が進捗しています(関西学院大学新聞 2024年3月18日より)。このように、有名大学においても新学部の設置(予定・構想を含む)が継続的に推進されています。
これらの動向には、従来希望する学問・研究分野との兼ね合いから、他大学を選んできた受験生を自大学へ誘引する戦略的意図が背景にあると考えられます。現在、多数の志願者を集めている大学も、将来的な環境変化を踏まえて対応策を講じているのです。
最後に
大学の定員割れ問題は、単なる一過性の現象ではありません。少子化という構造的課題の中で、大学は「入学者を選ぶ存在」から「高校生等から選ばれる存在」であることを今まで以上に強く求められています。
そして、これからの大学選びや進路設計では、大学HPに掲載されている大学のビジョンや経営戦略まで含めて見ておくことも重要になるでしょう。


