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外科医のつぶやき

不安な思いから“安全第一”に取り憑かれた医療ではダメ!

柴田 高
【第15回】

 現在、私の勤める会社では、月曜ラウンドという回診を職場で行っている。工場から研究所、そして全部署をまわり、全社員の顔を見ながら1週間の申し送りを受けている。安全第一、品質第二、効率第三と書かれた大きな文字を背中に、工場職員全員を前に、私の思いを伝える。「今週も安全第一、品質第二でよろしくお願いします」と最後の言葉。職員の安全第一、品質を第二と訓示しているが、医療の現場では「安全第一」は、患者さんの治療の目的を考えると、とてつもない錯覚がおこることがある。

 外傷や胃潰瘍の穿孔、虫垂炎、腹膜炎などの手術は患者の苦痛と病気を治療する手段が一致するため、安全第一で手術が選択される。しかし、胃ガン、すい臓ガン、肝臓ガン、大腸ガンなどでは、患者さんが必ずしも自覚症状がなく、完全治癒を求めた場合、患者さんはリスクのある手術を選択しなければならない場合もある。

 人の体は、約60兆個の細胞から成り立っているといわれる。その細胞は数日から数ヵ月程度の寿命であり、常に細胞分裂を繰り返して子どもの細胞を生み、親の細胞の仕事を子どもの細胞が引き継ぐようになっている。親の細胞はアポトーシスという一定の時間が来れば細胞の活動が停止し、寿命のように死ぬようプログラムされている。

 一方、ガン細胞は正常細胞から生まれたものであるが、アポトーシス機能が欠落し、寿命がないまま永遠にガン細胞を鼠算式に生み続け、組織を破壊し、人に死をもたらす。これらのガンは固形ガンといって、外科的にガン細胞すべてを切除すれば完治は可能である。早期ガンで見つかると切除範囲は小さく、比較的簡単である、進行ガンであれば、拡大手術だけが死を回避する唯一のチャンスとなる。最近では放射線や抗ガン剤、さらにはガンワクチンなるものが開発され効果をもたらしているが、まだまだ切除に勝る治療は今のところ見あたらない。

 SセンターからT市民病院へ異動を命ぜられたとき、

 「柴田先生はガンの性格や挙動も理解したし、戦うすべを習得しましたが、ここは特殊な病院なので次の病院では患者さんの安全を考えてガンと戦ってくださいね」

 と上司のI外科部長に言われた。私は「はい、わかりました」と答えたが、ガン専門病院での医療と市民病院での医療の違いを知らなかった当時の私には上司の言葉の意味が理解できなかった。

 「はい、次の患者さんお入りください」と私。

 40代の男性とその奥さんが入ってくる。診察いすに腰かけた患者さんの顔を見た瞬間、黄疸の患者さんであることがわかった。

 「先生、最近からだがかゆくて、ウンチはクリーム色で、尿が濃くなって」とMさん。

 「今までに胆石は?」とたずねた私に、

 「痛みもないし、胆石もありません」と診察台に横になりながらMさん。

 「おなかを開けてひざを立ててくださいね」と私。

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柴田 高

川崎医科大学卒業後、大阪大学論文博士課程修了。日本外科学会指導医。日本消化器外科学会専門医。現在は大幸薬品社長。著書に『カリスマ外科医入門』『肝癌の熱凝固療法』がある。


外科医のつぶやき

現在は製薬会社役員である外科医師による医療エッセイ。患者の知らない医師の世界。病院の内側が覗ける、ここだけの話が満載。

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