直腸がんの手術では周囲の自律神経を傷つけることがあり、術後性機能障害が生じる可能性がある。
男性患者の開腹手術での性機能障害発生率は68%で、勃起障害のほか、射精感があるのに精液が正しく排出されない、射精ができないなどの射精障害が起こり得る。生活の質を著しく下げるため、術後合併症の説明を受けると手術を拒否する患者もいるほどだ。
しかし近年は、リスクが少ない方法を選べるようになってきた。
横浜市立大学付属市民総合医療センターの研究者らは、腹腔鏡下大腸切除研究会に所属する49施設で直腸がんの切除術を受けた男性(年齢20~70歳、年齢中央値59歳)について、腹腔鏡下手術とロボット支援下手術とで術後の性機能障害の発生率を比較している。
腹腔鏡下手術とロボット支援下手術は、どちらも腹部に開けた複数の孔から専用の手術器具(鉗子やカメラ)を入れ病巣を切除する方法で、ロボット支援下はより緻密な手術が可能だとされる。
追跡比較では、腹腔鏡群152人対ロボット群152人で手術3ヵ月後、6ヵ月後、12ヵ月後に射精機能アンケートおよび勃起機能アンケート調査を行った。
その結果、術後12ヵ月時点での射精障害発生率は全体で29.8%、勃起障害が34.7%、性交障害(硬度を保てず挿入ができないなど)が20.6%だった。
腹腔鏡群とロボット群の比較では、射精障害の発生率は40.9%対25.0%とロボット群で有意に低かった。また、性交障害も29.0%対17.8%とロボット群で低い傾向が示された。一方、勃起障害の発生率では38.8%対37.2%と両者の差はつかなかった。
研究者はロボット支援下手術では自律神経の損傷がより軽度である可能性を指摘し、「男性直腸がん患者の性機能維持にはロボット支援下手術が有用」としている。
直腸がんのロボット支援下手術は2018年4月に保険収載され、今では年間3000件超が実施されている。実施施設の基準緩和も視野に入っており、今後はさらに増えるだろう。万が一のときの選択肢として覚えておきたい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)