建機メーカーの勢力図に異変が生じている。成長著しい中国メーカーは自国の市場を席巻するにとどまらず、東南アジアでも存在感を増している。かつては値段の安さを武器にしていたが、今では技術力でも日系メーカーに追い付いてきているのだ。日本勢はかつて「ドル箱」だった中国市場を追われ、東南アジアでも縄張りを侵食されている。特集『建機 陥落危機 メーカー&商社“背水の陣”』の#1では、猛追する中国メーカーの動向と、王者・米キャタピラーに次ぐ立ち位置を死守すべく立ち向かう日系メーカーの戦略を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
2~3割安い中国メーカーの油圧ショベルに
日本勢はどう立ち向かうのか
首都移転や資源開発に沸くインドネシアで今、建機メーカーがしのぎを削っている。2024年10月に新政権が発足して以降、建機と農機の需要が高まり、各社の営業担当者は鼻息荒く自社製品の売り込みに走っているのだ。
激しいシェア争奪戦が展開される中で、戦況の変化を象徴する出来事があった。パプア州のサトウキビプランテーション開発に伴う油圧ショベルの大型商談で、新規に調達された2000台のうち1000台を中国メーカー、三一重工(SANY)がもぎ取ったのだ。世界第2位で東南アジアを牙城にしてきたコマツが納入できたのは、残り1000台だけだった。
この大型案件については、同年10月のコマツの決算説明会でも取り上げられた。同社の小川啓之社長の説明によると、インドネシアの建機のシェアは23年時点で中国勢が23~24%であるのに対してコマツは28%を占めているという。
小川社長は、同国では用途を都市土木に絞った代わりに価格を下げた油圧ショベルの売れ行きが好調と説明。「SANYとも伍していけた」と胸を張ったが、裏を返せば日本メーカーが先行して販路を切り開いていた市場を食い破られようとしている現状で、辛うじて引き分けに持ち込んだにすぎない。
自分たちの製品をまねしている「格下の新興勢力」。かつて中国メーカーに対する視線は侮りを帯びていた。しかし、急成長を遂げた中国メーカーは脅威となっている。東南アジアはもとより、中国勢のお膝元である中国市場で、日本勢は完全に存在感を失っている。このままでは中国だけでなく、「ドル箱」の東南アジア市場まで奪われかねないのだ。
中国は01年にWTO(世界貿易機関)に加盟し、「世界の工場」としての役割を担い始めた。設備投資で真っ先に導入される建機の市場は、インフラ開発や不動産投資とともに瞬く間に成長した。
2000年代、日本の建機メーカーは中国で爆発的な需要拡大の恩恵を享受した。ピークだった10年度には、コマツの売上高に占める中国の構成比が21%を占め、日立建機での同構成比が27%にも上った。当時の日系メーカーは紛れもない「中国銘柄」だった。
ただ、近年は中国の経済成長が鈍化し、不動産不況は出口が見えなくなっている。次ページでは、近年のコマツと日立建機の中国とアジアにおけるビジネスの変化を明らかにするとともに、建機業界関係者が「肌で感じている」という中国メーカーの実力の現在地に迫る。