
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第59回(2025年6月19日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
タイトルバックが省略されるほど濃密な15分間
タンポポの綿毛が舞う戦場の風景が、 映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24年)を思わせた。
あの映画では、戦場に花が咲いていて、それが一瞬、主人公の視線に入るように見えるシーンがある。破壊する行為と自然の生命力を並列させた描写が興味深かった。『あんぱん』では飢えた嵩(北村匠海)がさまよい、タンポポの根っこを食べて飢えをしのぐ場面に綿毛が舞っていて幻想的だった。
第58回も内容が盛りだくさんだったが、第59回も濃密だった。岩男(濱尾ノリタカ)の死、リン・シュエリャン(渋谷そらじ)の裏切り、八木(妻夫木聡)の問い、そして嵩の亡き父・清(二宮和也)の幻。もったいないほど詰め込まれている。そのためかタイトルバックが省略されていた。
「あの子に撃たれたんだろう」
何者かに撃たれ、息も絶え絶えの岩男に嵩は尋ねる。嵩はリンを疑うが、最後まで岩男は少年をかばう。
「リンはようやった。これでええがや」
そう言って息を引き取った岩男は便宜上、名誉の戦死ということにされた。
林を捜索中、リンに会っていた八木はリンの行為を「親の仇を討ったんだ」と嵩に説明する。
林で彼は父の形見だという銃を構え隠れていた。