創業者たちからバトンを受け 業績を3倍超に伸ばした 森社長が社長交代に込めた狙い

オンラインで生命保険に加入する保険会社の草分け的存在であるライフネット生命保険。創業者たちが一線を退き、外資系証券出身の森亮介氏が2018年に社長に就任したが、それから7年の時を経て、システムエンジニア出身の横澤淳平氏が森氏の後を継ぐことになった。そこで連載『ダイヤモンド保険ラボ』の本稿では、森氏に社長交代に至った理由を語ってもらうとともに、横澤氏には今後の経営方針について話を聞いた。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

ライフネット生命の森社長が交代
システム畑の横澤氏が新社長に就任

――森(亮介)さんが2018年に創業者からバトンを受け継ぎ、ライフネット生命保険の社長に就任してから7年が経過し、横澤(淳平)さんにバトンを渡すことになりました。改めて、これまでの7年間を振り返ってみて、いかがですか。

森 亮介(以下、森) これまでの7年間を俯瞰(ふかん)してみると、結構登ってきたなと感じています。社長就任時の保有契約年換算保険料は約111億円(18年3月期)でしたが、25年3月期には約345億円になりました。また、最終損益については赤字でしたが、IFRS(国際財務報告基準)に移行した影響もありますが、約60億円(同)の黒字となっています。

 何よりこだわってきた企業価値を表すEEV(ヨーロピアン・エンべディッド・バリュー)については、同444億円だったのが、25年3月期は約1670億円(包括資本ベース)と約3倍になりました。多くの方々に助けていただきながら、年率20%ほどの成長を遂げることができました。

――就任当時は業績が伸び悩んでいたタイミングでしたが、どのような経営方針で臨みましたか。

 着任時は投資額が少ないと感じていました。投資といえば主に広告宣伝費を意味していましたが、それ以外にも成長ドライバーが欲しいと思い、パートナーシップを広げていきました。それがマーケットの理解を得られて企業価値が高まり、株価に反映させていきたいというのが、当時の思いでした。

 もっとも、当初はスマートフォンへのシフトが遅れていたため、まずは広告宣伝費を投じてスマホサイトをパワーアップして、オンライン生保としての成長を目指しました。その後、KDDIや三井住友カードのような戦略パートナーと組むことで成長が加速し、最後はauじぶん銀行の住宅ローンに付随する団体信用生命保険を取り扱うことができました。これら三つが重なり合うことで、先ほどのような業績になったというわけです。

 ビジネスには好不調の波がある中で、かつては一本足打法でしたので、不調の時は総崩れになってしまいます。オンライン生保のビジネスは労働集約型ではありませんので、拡大しても固定費が増えていかない点が魅力ではありますが、就任時は個人保険が苦しい時期でしたので、つらかったですね。それが、ビジネスラインが重層化したことで、事業の持続性が格段に高まりました。

――株価も上昇し、就任時の目標は達成したと。

 やり切ったといえば言い過ぎですが、当時の思いは実現できたかなと思っています。その一方で、ここ1、2年は当社のボトルネックが変わってきたと思っています。それに合わせて私自身がスタイルを変えられたらいいのですが、私は得意な領域がはっきりしているタイプですので、新しいリーダーにバトンタッチするのがいいだろうと、この2年ほど考えてきました。

――ボトルネックとは何でしょうか。

2018年に社長に就任した森氏が25年6月22日の株主総会で退任し、次期社長に横澤氏が就く。全くタイプの異なる両名だが、森氏が横澤氏に期待する役割とは何か。また、システムエンジニア出身の横澤氏が目指す新たなライフネットのビジネスモデルとは何か。次ページで明らかにする。