都村智史・京王電鉄社長Photo by Yoshihisa Wada

大手私鉄の京王電鉄が中期経営計画を発表した。向こう10年間で沿線各地の大規模再開発を予定する同社は、大規模投資に耐え得る経営基盤の強化を急ぐ。しかし、目玉となる新宿駅西南口の再開発の工期は未定のままで、問題は山積だ。京王電鉄の都村智史社長が、沿線価値向上に懸ける思いと、新宿再開発の鍵となる五つ星ホテル開業への決意を語った。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

沿線各地で再開発スタート
「本命」の新宿は完成未定に

――2025年5月に発表した中期経営計画では、大規模再開発によるまちづくりの推進を強調しています。中計期間の6年間で、具体的にどう進めていくのですか。

 沿線エリアで重点的に追加投資していく7つの重点エリアを定めました。新宿、下北沢、調布、多摩・八王子、橋本、高尾、そして連続立体交差事業を行う世田谷エリアです。その中で日常的に開発を進めるエリアと、大規模な投資を伴い都市計画決定を経て市街地再開発するエリアの2種類があります。

 大きな投資を伴う再開発エリアは新宿、橋本、調布、世田谷です。これらのエリアでは、28年ごろから30年代中盤にかけて順次開業していきます。沿線のほぼ全域で、面的なまちづくりが同時並行的に進んでいくのが今回の中計になります。

 かつて京王線は、競輪場、競艇場、競馬場が全部そろっていたので、「ギャンブル路線」と呼ばれました(笑)。そうした背景もあり、15年ほど前、私が経営企画部にいた際、京王沿線の特徴を客観的に調べたことがあります。

 西武池袋線からJR中央線、京王線、小田急線、東急線の沿線地域を距離で区分けし、そこにお住まいの方々を対象に大々的な意識調査を実施したのです。

 その調査の中で、他の沿線に対するイメージを聞く項目がありました。その結果を見ると、他社線沿線にお住まいの方々から見た京王沿線のイメージが各社の中で一番低かった。人気度なども含めると、ものすごい最下位でした。

 しかしその一方、沿線に対する満足度調査の結果では、京王沿線に住んでいる方が、他の沿線に住んでいる方に比べてダントツで1位でした。

――魅力が京王沿線以外の人々にあまり知られてないのでしょうか。

 シンボリックなエリア、知名度の高いエリアが少ないからだと考えています。例えば東急線には二子玉川駅、小田急線には成城学園前駅がありますが、京王沿線には沿線のイメージをけん引する駅がない。調査結果は、京王沿線の内と外でかなり対照的な結果だったので、ずっと印象に残っていました。

 コロナ禍によって事業環境が大きく変化し、首都圏では移動需要が1割減少しました。そのため、もともと課題だった沿線の価値の低さが、いっそう深刻化しています。

 知名度も含めて沿線エリアの価値を上げ、注目されるエリア、行ってみたい、住んでみたいエリアへと変化する必要がある。これが中計でまちづくりの推進を掲げた理由です。

――30年代中盤まで大規模な再開発が続くとのことですが、その開発計画における今回の中計の位置付けを教えてください。

 大きな文脈で言うと、20年代中に調布エリアなどは開業しますが、新宿、橋本エリアの再開発は、その次の10年になります。つまり31年3月期までに、そこまでの投資に耐え得る体質になる必要があります。

 それから鉄道事業に関しては、需要の落ち込みを前提に事業を考える必要がある。ただし公共事業ですから、安全性や利便性に対する投資を絞るわけにはいきません。

 それに対応する一番大きな施策が自動運転技術を活用したワンマン運転で、20年代後半に京王井の頭線で営業運転を目指しています。そうなると30年代にはワンマン運転で業務効率が向上し、生産性が上がります。こうした施策を打つことで、大規模投資をしていく30年代には鉄道事業がより筋肉質になることができると考えています。

 次の時代に向けた事業の変革をこの6年間でやり遂げないと、30年代の次のフェーズを安心して迎えられない。そうした位置付けの6年間です。

――目玉事業である新宿駅西南口の再開発ですが、計画が未定になりました。この理由を教えてください。

次ページでは都村社長が、新宿駅西南口の再開発が延期になった実情と、駅直上に建設する京王初の五つ星ホテル開業への意気込みを語る。