「業績見通しを公表できないのは初めてのことだ」(谷口進一・新日本製鐵副社長)

 鉄鋼大手4社が今期の業績予想を出せないという異例の事態が生じている。決算発表において、新日鉄、JFEホールディングス、神戸製鋼所は売上高、利益予想を非開示。住友金属工業は利益予想のみ開示したものの、「業績予想数値に根拠はない」(本部文雄・住友金属副社長)と発言し、失笑を買う場面もあった。

 業績予想の開示を見送った理由は原料価格の見通しがまったく立たないためである。

 鉄鋼メーカーと資源会社の契約方法は1年間の価格固定の「ベンチマーク方式」。ところが、中国をはじめとした新興国需要の高まりで、資源価格の高騰が続くなか、資源大手は鉄鋼メーカーに対し、四半期ごとに価格改定を行う「市場連動方式」の受け入れを強く迫っている。

 これに対し、鉄鋼メーカーは、顧客企業への鋼材の安定供給などを理由にベンチマーク方式の継続を要望。「資源会社とはいまだ交渉中だが、折り合いがついていない」(谷口・新日鉄副社長)。

 だが、今年4~6月の鉄鉱石価格については、新日鉄などは資源大手のヴァーレとのあいだで、2009年度に比べ、じつに9割もの値上げ(約105ドル)で暫定合意を余儀なくされた。なし崩しに新方式の受け入れを迫られているわけだ。

 資源大手は世界でBHPビリトン、リオ・ティント、ヴァーレの3社に集約しており、交渉力では太刀打ちできない。「もはや新方式を受け入れざるをえない」(大手鉄鋼幹部)という声が大勢を占めつつある。JFEは原料価格に応じて鋼材価格が自動的に決まる「値決め方式」を検討し始めた。

 だが、鋼材価格への転嫁は難しい。すでに造船業界は、「国内向け厚板需要が減少しており、むしろ価格は引き下げるべきだ」(日本造船工業会の元山登雄会長〈三井造船会長〉)と猛反発している。まして四半期ごとの価格改定を受け入れる顧客企業はほとんどないだろう。一定の鋼材値上げを容認すると見られるトヨタ自動車も、四半期改定には難色を示している模様だ。

「国内鉄鋼メーカーからの要求次第では、海外からの調達も視野に入れる」(川崎重工業幹部)と、牽制する動きも出てきた。

 鉄鋼大手の昨年度業績は大幅な減収減益。新日鉄、住友金属に至っては最終赤字となった。今期は回復基調に戻りつつあるものの、原料価格交渉の行方次第では、再び厳しい状況に転落しかねない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)

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