関税地獄 逆境の日本企業#14Photo by Reiji Murai

米トランプ大統領の関税措置をめぐり、日本政府はどのように交渉を進めていくべきなのか。特集『関税地獄 逆境の日本企業』の#14では、環太平洋経済連携協定(TPP)で米国と厳しい交渉を繰り広げた経験を持つ自民党元幹事長の甘利明氏を直撃。国別、品目別に多様な関税を打ち出しては修正するトランプ氏の姿勢や、日本の交渉戦術について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二、編集長 浅島亮子)

TPPで米国と渡り合った重鎮が語る
対トランプ交渉の要諦とは?

――赤澤亮正経済再生担当相が1回目に訪米する前に面会し「トランプ政権との交渉は理より利で臨むべき」と話したということですが、どんなアドバイスをされたのでしょうか。

 赤澤氏とは私の事務所で面会しました。私が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を行っていたときのカウンターパートはオバマ政権です。当時と同じやり方をトランプ政権でやったら、収拾がつかず、“戦争”になってしまいます。

 オバマ氏は理で納得したらわかる人で、自分が発言したら間違っていたとしてもそれに責任を持つ。それが従来の米国大統領なのですが、その方式がトランプ氏には全く通用しません。だから、理詰めで説得するのは一番避けた方がいい。

 あとは長い説明はやめた方がよい。安倍晋三元首相だって最初の頃は、官僚が用意したペーパーで散々説明させられたものだ。そしたらトランプ氏は3分で飽きてしまった。だからそれ以降は、ペーパーでの説明は2枚までで時間は3分以内でやるようにした。

 逆説的には、そのくらい簡潔にまとめられないような話はややこし過ぎてやらない方がいいというのも、政治の本質なのかもしれないですね。

――対オバマ氏のTPP交渉と今回のトランプ政権との交渉の手法で最も違うことは何でしょうか。

 理が通る人に対するやり方ではなく、トランプ氏に対しては「一見、損に見えるかもしれないが、実は得です」ということをわかりやすく説明して「ああ、そうか」と得心してもらうことが重要です。そうすれば物事が動き出す。

 あとはトランプ氏にとって大事なのは「勝った」という理屈。だから理詰めではなく得詰めでやるのがよいと思います。

 私がよく引き合いに出す例は、安倍氏がトランプ氏と日米安全保障をめぐって駐留米軍の負担引き上げを要求されたときのこと。トランプ氏は安倍氏に「米軍の駐留経費をきちんと負担してもらわなければ、最後はハワイに軍を引き揚げるということになりかねない」とたたみかけた。安倍氏は「日本はどの国よりも一番駐留経費を負担していることを理解してほしい」と訴えた上で、それに続けた言葉が良かった。「ハワイに米軍を全部引き揚げてしまったら、これまで日本が負担してきた経費をあなた方が全部負担しなくてはならなくなるよ」と。

 そうしたらトランプ氏は「私を説得する天才の言葉だ」と。トランプ氏との交渉では、そうした刺さる理屈が必要なのです。

――赤澤再生相を起用した日本政府の「トランプ関税対策チーム」をどう評価していますか。