先週、記者の方々から、かんぽの宿の売却プロセスは通常のM&Aのプロセスとして妥当なのかという問い合わせを次々に頂いたので、大学院とはちょっと関係ないが、今回はこの「かんぽの宿」をテーマにしてみたい。

通常のM&Aにおいては、
独立委員会で解決

 M&Aの際は、こうした利害関係者間での意見の不一致が起きた時には「独立委員会」を組成し、同委員会が独自にファイナンシャルアドバイザーを雇い、取引条件が妥当かどうかを検証することになる。

 今回は、郵政サイドがメリルリンチを雇っているが、売却側アドバイザーは郵政、およびその株主にとっての価値最大化を目指してもろもろアドバイスを行ない、売却案件を取りまとめていくこととなる。

 しかし、アドバイザーは基本的には企業(郵政)のみとコミュニケーションを行ないながら案件を進めていくので、最後になって株主が「その条件では飲めない」と反対をすることもある。

 株主は、企業の経営陣、およびそれが雇ったアドバイザーに任せていても埒が開かないと判断すれば、独自に経営陣、役員とは独立した独立委員会を組織し、そこに別途アドバイザーを選任させ、案件の条件の妥当性を検証することとなる。

独立委員会とは何か?

 日本においては、敵対的買収が起こった時に、その買収提案を経営陣ではなく独立した第三者的組織が評価すべきだという議論の流れにおいて、独立委員会を組成する動きが出てきている。当記事で話している独立委員会の位置づけは、基本的にはその敵対的買収時の独立委員会と同じものである。

 これまでの郵政と総務相のやり取りは、その独立委員会を組織するまでの下準備であったととらえるのが正しいだろう。総務相が突然独立委員会組成の動きに出ると角が立つだろうし、まずは郵政に説明の機会を与えてから、という流れだったのだと思う。

そもそも売却のプロセスは
妥当だったのか?

 さて、少し時間軸を戻して、そもそもかんぽの宿の売却プロセスは、通常のM&Aプロセスに照らして妥当だったのかを検証してみたい。結論から言うと、プロセスそのものには異常性は見いだせない。ただ、実際にはどういうプロセスを経たかは当事者でないと分からないので、外部からその妥当性を検証するのは簡単ではない。

 最初に数多くの買収候補者に幅広に声をかけて興味の打診を行ない、興味ありと表明した先から1次入札を受け付け、条件が良かったところ3社を残して最終入札を行なった(ただし、1社が辞退したため、最終入札には2社が応募)というプロセスは、M&Aとしては一般的である。1次入札から最終入札に進む企業を選別する際は、買収金額の他に雇用条件や事業プランなど定性面も加味したとのことで、これも極めて一般的である。

 売却プロセス途中で一部世田谷の資産を売却対象から外したことが、疑心暗鬼を買ったようであるが、M&Aにおいては売却プロセスの途中で売却対象資産を変更することもなくはない。よって、これも通常のM&Aの範疇と言えるだろう。