「これは非関税障壁ではないのか」。ある化学メーカーの関係者は嘆く。今年からEUが導入する「REACH」のことである。
REACHはEU内で製造、または輸入される化学物質(1トン以上)を包括的に規制するもの。法自体は2007年6月に施行ずみで、2008年6月1日から実質的に発効する。
同日から12月1日の間に、物質ごとの“予備登録”をしなければ、事実上、製造もEUへの輸出もできなくなる。
関係企業は今、専任チームをつくるなど対応に大わらわだ。というのも、規制内容が従来より格段に厳しいからだ。
まず、対象が膨大だ。同法では新規に扱う物質だけでなく、すでに扱っている物質も登録せねばならない。この既存物質だけで10万種が該当するという。
また化学物質そのものに加え、場合によってはそれを原材料として含む製品(成型品)も対象となる。つまりはあらゆる製品が対象となりうる。
さらに、これまで政府が行なっていた有害性などの「リスク評価」が、事業者の義務となる。他社との共同提出なども認められているものの、専門機関に依頼すれば、当然コストがかかる。
また登録はEU圏内の企業にしかできない。
現地法人があればよいが、輸入業者や代理業者に頼めばその費用もかかる。手間とコストの両面で、そうとうな負担となる。
規制自体に曖昧な部分があるのも業者の悩みのタネだ。たとえば対象となる「成型品」は、「製品の機能上、意図的に化学物質が放出されるもの」という規定で、インクが揮発するフェルトペンや、研磨剤を含む自動車用ワイパーなどが例とされている。しかし、該当する製品の範囲は明確ではない。
さらにREACHは、該当物質の安全性などに関する情報を、サプライチェーン全体で共有することを義務づける。
たとえば完成品メーカーが対象物質を含む製品をEUへ輸出する場合、原材料メーカーからそれらの情報を得て、登録の際に提出せねばならない。調達先には中小企業も多く、要求に応じ切れるのか懸念されている。
対応力という面では、中国も問題となる。
同国のEU向け輸出への影響は避けられない。また中国からの調達や、生産委託を行なっている日系メーカーも、対策を迫られるだろう。
環境・消費者保護の観点からは「画期的」と評されるREACHだが、メーカーは困惑するばかりである。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 河野拓郎)