この7月より、ソフトバンクは、全国的にNTTの「フレッツ光」(高速大容量のブロードバンド回線)を代理販売し始めた。いまだに「なぜ?」の付く組み合わせだが、合点がいくシナリオもある。

 これまで、ソフトバンクの狙いは、長年の宿敵であるNTTの軍門に下ることで、自社の固定通信(ADSL)の顧客流出を食い止めたり、販売手数料を稼いだりすることにあると目されてきた。

 だが、彼らの真の狙いは、実用目前まで来ている技術改良中の「フェムトセル」(宅内に置く簡易型無線基地局)を家庭内に置かせてもらうための“足回り”を、今から整えておくことにあるという推測のほうが納得度は高い。

 中長期的に見れば、日本の固定ブロードバンド回線はNTTのNGN(フレッツ光ネクスト)に収斂する流れにあるが、本格的な普及にはまだ時間がかかる。そこで代理店として、その手伝いを買って出た。普及した暁には、その上で自前のモバイル新サービスを展開しようというシナリオだ。

 ソフトバンクは現在、年間数千億円かけて基地局を造っているが、NTTのNGNが整備されて借りることができれば、設備投資を大幅に浮かすことができる。特に、高速大容量で設備に負担がかかるiPhoneのトラフィックを、NTTに肩代わりしてもらえるとしたら大助かりだ。

 NTT東日本の技術系幹部は、「確かに、そのようなリスクはあるが、彼らは光回線を売ってくれる」と代理店施策はビジネス上の判断だったと強調する。一方で、ソフトバンクモバイルの弓削哲也・常務執行役員は「そこまでカチッとした絵を描いていないが、否定はしない」と含みを持たせる。

 自らは画期的な新サービスを生み出せないNTTと、設備投資をしたがらないソフトバンクの“呉越同舟”は、利害が一致している。だが、気を引き締めていかないと、NTTは「(ソフトバンクに)軒を貸して母屋を取られる」可能性がある。

(『週刊ダイヤモンド』編集部  池冨 仁)

週刊ダイヤモンド