「失われた30年」と言われて久しい。日本経済がふたたび活況を取り戻すためにも、より多くのスタートアップやユニコーン企業の誕生が求められる。2022年11月、岸田内閣(当時)主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表されるなど、スタートアップへの注目が高まる中、『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』(田所雅之著、ダイヤモンド社)では、起業家を脇で支える参謀人材(起業参謀)の育成こそが、スタートアップ成長のカギを握ると説いている。本連載では、スタートアップのキーマンである起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について、同書より抜粋・一部加筆して紹介していく。

MOATにおける知財の価値とは
日本のTBMという会社は、石灰石から紙のようなLIMEXシートを作る技術を持っている。こうした企業にとって重要になるのは、まさにテクノロジーである。こうした新たな開発に臨んでいる企業の場合、知財の活用も重要な論点となる。
知財には大きく4つの役割がある。
1つ目は、自社のコア技術を他社から攻撃されないために防衛する役割である。将来必要になる技術も他社に奪われないための備えとして必要になる。
2つ目は、収益源としての役割である。有効な技術は他の会社にとっても魅力的であることから、ライセンス提供により知財そのもので収益をあげることができる。
3つ目は、クロスライセンスを活用する役割である。クロスライセンスにより他社の技術を使えるようになれば、単独では難しかった技術や製品を作り出すことができる。
そして4つ目は、企業価値を高める役割である。知財は資産になるので、投資家がその価値を考慮する可能性がある。
下図のように企業のフェーズごとによって、知財でもフォーカスするポイントが変わってくるので注意しよう。
ステークホルダーとの良好なリレーションの蓄積も、そのスタートアップにとって価値を高めていくためのMOATになっていくことに留意したい。
特に、マッチング型のプラットフォームビジネスをやっている場合は、役務提供者(サプライヤー)と強力なリレーションを持っていることは、強いMOATにつながる。
たとえば、ベビーシッターとユーザーのマッチングサービスを提供している場合、いかに役務提供者であるベビーシッターと良好な関係を構築し、自社に優先的にリソースを提供してくれるかがキーになる。
起業参謀には、中長期的に勝っていくという視点が非常に大事である。成功している企業や上場している企業のMOATは一体何なのかを分析し、参考にして、いろいろな視座を獲得してほしい。
起業参謀の問い
自社にとってMOATとなる要素は何か? 中長期的に見て勝ち続けるためにどのようにMOATを築いていくか、仮説はあるか?
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。