ムダ5:名刺フォルダ
すぐに満杯になるが、大部分は不要

セールスフォース・ドットコムでなくなった名刺フォルダのムダ

・必要なときに対象者の名刺が見つけられない
・デスクの引き出し一つ分のスペース
・顧客の最新情報を聞いて回る時間

全社で情報を共有すれば強力な武器にも

 営業につきものなのが顧客先の名刺。訪問する先が増えれば増えるほど名刺の量も増える一方で、その保管に頭を悩ませている人は少なくないだろう。しかも、大量に名刺があっても、頻繁に利用するのはそのうちの一部だけということが多く、名刺フォルダに入れてしまうと、必要なときにすぐに見つけられない、という事態にも陥りがちだ。

 この名刺フォルダも、実はセールスフォース・ドットコムには存在しない。「お客様から名刺を頂戴したら、すぐにSalesforceに登録、すでに登録済みであれば変更内容を更新するだけで、その後名刺を使うこと自体がありません」と寺本氏は説明する。

 ここまででも紹介した通り、Salesforceでは顧客企業の情報が、過去の取引履歴を含めてすべて保存され、全員で共有されている。その企業の担当者の情報も同様で、企業情報に紐づく形で保存され、組織の上司・部下などの関係性も可視化されている。例えば部署の異動や昇進などで肩書が変わっても、更新情報を確認すれば、おおよそいつごろに変わったのかもわかる仕組みだ。最近では、FacebookやTwitterなどSNSのアカウントを名刺に記載している人も少なくないが、そうした情報もSalesforce上に登録される。「実際によくある話なのですが、FacebookやTwitterなどのSNS情報が、新規案件の成約に大きく貢献することがあります」と鈴木氏は語る。ある営業担当者が新規案件の訪問営業のために、取引先責任者の情報を予習していて、Facebookの「お友達」を調べたところ、実はその担当者が社内の別の部署の人間と古い知り合いであることが判明。その人間から先に紹介メールを送ってもらい、商談にスムーズに入ることができたという。名刺のデータベースが直接営業につながった好例であり、名刺フォルダを使って個人個人が保管していたのでは決して生まれない事例といえるだろう。

 営業とは、突き詰めれば人と人の関係性であり、その部分に最大限の配慮を施さなければいけないのは言うまでもない。しかし、その関係性を重視しすぎることで、特定の顧客とのつながりが属人化されてしまっては元も子もない。Salesforceはそうした落とし穴を避け、営業と取引先との関係性強化を全社でサポートする仕組みともいうことができそうだ。

Salesforceで変わるポイント
取引先責任者でさまざまな履歴を参照

取引先担当者の情報は、部署や役職など肩書の変遷だけでなく、ほかの上司・部下との関係性や、過去の自社の営業担当者も併せて確認することができる。

 


ムダ6:ハンコ
営業プロセスを遅らせる元凶

セールスフォース・ドットコムでなくなったハンコのムダ

・紙の書類
・上司の承認を待つ時間
・ビジネスのスピード感の欠如

「鉄は熱いうちに」を実現する仕組み

 長期間かけて顧客担当者を口説き落とし、ようやく成約までこぎ着けて後は契約書を交わすだけ。なのに上司が社内におらずなかなかハンコを押してくれない。先方の気が変わるのではないかとやきもきするが何もできない――営業の仕事をしていてこのような経験を何度かしたことのある人は多いだろう。日本企業の悪習と批判を浴び続けながらも、なかなかなくならないハンコは、営業プロセスを遅らせる元凶の一つともいえる。「ハンコを使うのは、年末調整の書類ぐらい」(寺本氏)というほど、セールスフォース・ドットコムではハンコの存在感が薄い。というのも、契約書や見積書・請求書だけでなく、社内の経費精算や出張申請書まで、Salesforceではほぼすべて電子認証となっているからだ。社外向けの契約書などに関していえば、最終決定権者が「承認」のボタンを押すだけで、社判のついた契約書のPDFが完成する仕組みになっている。

 その背景には、特にセールスフォース・ドットコムという会社自体が、プロセスをスピーディーに回すことを最優先する文化がある、と寺本氏は指摘する。「例えば契約に関してお客様とすでに合意に達しているのであれば、『鉄は早いうちに』打たないと、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまう危険があります」。

 この意識は管理職だけでなく、一般の社員にまで浸透しており、「上司の承認が遅れていると、部下から『早くしてください』と突き上げられることもあります」と鈴木氏は話す。

 中間管理職であるマネージャーの立場からすると、部下からの申請をチェックして、差し戻すか、最終決定権者に回すかの判断を迫られる。「外出先でもスマホやタブレットで見ることができますから、なるべく早く判断して処理するようにしています。それでも、『なんで5分もかかっているんだ!』と、部下と上長それぞれから指摘されることもあります」と寺本氏は笑いながら話す。

 瑣末なことと思うかもしれないが、ビジネスのスピード感というのは、意外とこういう細かな部分の積み重ねで、社員の意識づけがなされる側面もある。そのためには、スピードを実現できる仕組みが必要なのは言うまでもない。

Salesforceで変わるポイント
経費精算から契約書までオンラインで申請

経費や出張など部下からの承認申請は、電子認証で行われる。ハンコも不要で、モバイル端末により外出先からでも申請をチェックすることができる。また、契約書なども電子認証でPDFが完成するので、時間経過が原因でビジネスチャンスを逃すということがない。