次に、このプラットフォームにおける重要な方向性として、「協調領域と競争領域を分ける」ということが挙げられます。

 協調領域とは何か。例えば、一般的に公開されている気象や地図等、あるいは公的機関が整備した各種データベースの閲覧を想定しています。ただし、厳密には何処までが協調領域なのかというのは非常に線引きが難しい。精密な地図や気象予測などの付加価値があるものは、競争領域に当たるものもあるでしょう。あるいは、ユーザー認証や管理といった機能について、汎用的なものは協調領域に充当するかもしれません。

 しかし、いずれにしてもこれら全てを各社が個別にシステム構築するのは投資の重複に充当するのではないか。そうであれば、プラットフォームが、個々のデータホルダーと契約して、それらのデータをプラットフォーム経由で利活用可能な仕組みを構築した方が各社にとって効率的です。これが協調領域の考え方です。そのうえで、各社の投資は、独自のサービス等の拡充に集中して頂く。必要以上のベンダーロックがかからないようにして、競争領域に集中投資できる仕組みを構築しつつあります。

農業関連の
「データ取引市場」への期待

 今後、このプラットフォームを介して、農業関連のデータ取引市場が始まることが期待されています。気象や地図は、有償、無償、双方のデータがプラットフォームに提供されており、利用側が目的に合わせて取捨選択することが可能なアーキテクチャとなっています。

「この地図データはクオリティが高いが、自社がやろうとしているビジネスの収益性を考えると今回のソリューションでは、より安価なものを選ぶ…」など状況に合わせた選択もできますし、利用料や利用範囲についても目的に応じ設定することによる差別化もできるわけです。今春には、データ利活用や連携をするためのAPIの公開も予定されており、データを比較するためのミドルウエアなども充実していくことが予想されます。

 将来的には篤農家が実施している環境制御技術に関する知見や栽培管理データなど、 “名人芸”につながるデータを篤農家自身が提供し、無償・有償の課金や提供範囲を自分達で決めて流通させるような時代が来ることも予想されます。農家とメーカーをつなぐような企業がプラットフォームを利用するケースもあるかもしれません。また、農家が自分たちの取引情報を公開すれば、小売りとのマッチングにも画期的な進展をもたらすでしょう。

 従来、仲卸との関係性で固定化されがちだった販路も、さまざまなプレイヤーが増えていくことにより、多様化されるからです。2017年8月に普及を目的として立ち上げられた協議会(農業データ連携基盤協議会、通称WAGRI)には、自治体や商社など農業分野以外を含め、110を超える組織が参加しています。まさに、農業分野におけるデータ取引市場が始まろうとしているのです。

 従来は、篤農家が高齢化に伴い引退すると、その知見が失われてしまうことも多かったのですが、彼らのノウハウをコンテンツの形にして提供できれば、地域の発展や提供者への利益にもつながります。こうした形のコンテンツ作りは、すでにいくつかが動き始めています。またノウハウではなく「温度を上げる」「水やりを開始する」などの実際の作業を、遠隔制御によって最適化するソリューションも動き出しています。