働き方改革の“実効的ソリューション”として期待されるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)だが、ここに来て、日本でも先進企業による導入が相次ぎ、経営層の関心度は高まっている。世界有数のRPAベンダー、UiPathの日本法人でトップを務め国内外の最新事例に詳しい長谷川康一氏が、RPA導入に成功するためのポイントなどについて語った。

「課題先進国」の日本では生産性の向上が急務
日本の要求水準はグローバルの基準の先駆けとなる

RPAによる業務の効率化・高度化で日本企業は再び競争力を取り戻す長谷川康一 UiPath代表取締役CEO
1983年、慶應義塾大学法学部卒業後、アーサーアンダーセン(現アクセンチュア)入社。1993年、ゴールドマン・サックス入社。ニューヨーク、香港、ロンドン勤務。2000年、ドイツ銀行入社。日本グループCIO、アジアパシフィック債券部門CIO。2005年、バークレイズ銀行入社。アジアパシフィックCIO、グローバルOutsourcing Strategy、取締役日本COOを歴任。2017年より現職。

 諸々の問題を他国に先駆けて抱え「課題先進国」といわれる日本において、生産性の向上は急務となっている。日本の一人当たり労働生産性はOECD加盟国35ヵ国の中で21位、先進7ヵ国のなかでは最下位に沈む(2016年)。これに加えて、少子高齢化・労働力不足が進展するなかで、生産性の問題は深刻度を増している。こうした背景を受けて、官民挙げての働き方改革やデジタルトランスフォーメーションの実現に向けた現場の自動化が進められているわけだが、それに対する実効的なソリューションがRPAである。

「課題先進国」日本の生産性が低いとされる理由の一つは、日本の「おもてなしの心」にもあるのではないか。日本のサービスは世界的に見てもワンランク上を行く。いい意味でいうと、洗練された顧客のニーズに応えるために、ありとあらゆる努力をする。たとえば、サンプリングチェックを行うとき、欧米企業は100のうち10やるところを、日本企業は30も40もやって正確性を高めようとする。しかしながら「おもてなしの心」により品質に対して細部にこだわるあまり、生産性を低くしてしまっている。このままでは、欧米企業と競争して優位に立つのは難しい。

 ところで、RPAはどこから始まったのかご存じだろうか。実はインドのオフショアセンターがその起源といわれる。2000年代前半、欧米の金融機関が安価な労働力を求めて、簡単で単純、大量の処理をインドのオフショアセンターでプロセスするようになった。

 ところが、2008年のリーマンショックを契機に規制強化が進んだことによって、金融機関は、それまでのビジネス拡張から規制対応、コスト削減に追われるようになり、テクノロジーの投資は減少し、そのほとんどが規制対応に回るようになった。そのような流れのなかで依然として大量で簡単な定型処理を手作業で行っていたオフショアの人材に代わってPC画面に自動的にデータ入力できる仕組みができないかと開発されたのが、のちのRPAだ。それから10年以上が経過し、テクノロジーが格段に進化した結果、RPAは世界の先進企業にもマッチするレベルに達してきた。

 UiPathが日本でRPAのビジネスを2017年に立ち上げた時、欧米の先進企業に比べ2年ぐらい取り組みが遅れているという意識を持っていた。しかし、過去1年の三井住友ファイナンシャルグループや電通などの先進企業の大規模導入の実績、160社以上の日本での顧客契約を踏まえて、いまのUiPathのグローバルの見解は「日本の要求水準を取り入れて、グローバル基準とする製品を開発できれば、グローバルで最も競争力の高いテクノロジーソリューションを提供できる」である。

 これから必要とされるべき現場の自動化はこれまでの大量、簡単、定型の処理とは異なる。すなわち少量かつ複雑で、100%定型ではない非定型処理に対する自動化処理にも対応できること、それが日本のホワイトカラーの現場で求められる自動化である。

 そのためには、コンピュータービジョンを通じ(人間の目のようにRPAが画面を読める)あらゆる業務のシステムに対応できる、デスクトップとサーバー型の機能を持ち業務の性質や自動化の進捗に対応できる、ユーザーが簡単に使えるツールで人手作業のレコーディングなど豊富な機能がある、といった要件が求められる。

 日本の要求水準を満たす製品が開発され生産性を高めることができれば、日本が強みとしている「おもてなしの心」が生かされ、現場の力を再び取り戻すことができる。そのような製品は世界でも通用するツールになるだろう。われわれは日本での実績がグローバルでの成功につながると考えている。このような観点からUiPathは2017年にグローバルのなかで日本に一番投資を行ったが、今年も引き続き日本を最重要市場としている。