「社会の仕組みを変えていく歴史の歯車が、ようやく動きだしたといってもいいでしょう。例えば、東北大学総長だった西澤潤一教授は、かつて日本全土に直流の送電線を巡らせる構想を打ち出しましたが、これまでは夢物語でした。しかし、地方でつくられた大量の再生可能エネルギー電力を大消費地に送るために、基幹送電線として直流送電網が現実の課題になってきます。交流電源の周波数が東西で分断されている現状も、基幹直流送電線からそれぞれの周波数の電力を取り出すことによって、解決される日が近いかもしれません」(小島教授)
日本の風土に合ったエネルギーをつくる
あらためて原子力か、化石燃料か、再生可能エネルギーかと、選択肢を並べて考えてみると、地震大国・日本で原子力発電を続けていくことのリスクの大きさは、誰もが認めるところだろう。コスト面でも、原子力発電は、廃炉費用などまで含めれば高くつくことがわかってきた。
一方、化石燃料に関しては、すでにIEA(国際エネルギー機関)が、「石油産出のピーク期が過ぎた」と公表している。
その一方で、新興国の需要は高まるばかりだから、価格上昇は避けられないとみていい。
「日本という国があと500年持つか、1000年持つかという歴史的な長い目で考えてみてください。私たちは再生可能エネルギーにするか、しないかの議論ではなく、もはや転換するしかないのです。問題は、いつ始めるかということだけです」小島教授)いつ、という問いの答えが、今年7月になる可能性は高い。
そして、新たな制度が始まれば始まったで、考えていかねばならないことがたくさんある。
例えば、再生可能エネルギーの先進国ドイツでは、日本人が思うほど電力に占める太陽光発電の比率は高くなく、大きいのは風力、水力、バイオマスだ。日照時間が短く、太陽光発電にはさほど適さないのである。
「それに対し日本は、南北に細長く、さまざまな気象条件を持つ地域があることが特徴。例えば北海道や離島は風力発電に向きますし、四国や九州の南のほうは太陽光発電に向きます。再生可能エネルギーは、自然の条件に即して選択することが重要なのです」(小島教授)
つくった電力は、地産地消をベースとする一方で、日本全体で電力を集め、大消費地に届けることも考えていかねばならない。そのためにも今の電力縦割り体制を見直し、次世代送電網整備のための投資をどう進めていくか、新たな議論が重要となってくる。