――どのように活用していますか。

井上 最初、グループ内で100人以上のユーザーから「すぐ使いたい」という希望が届き、使い始めました。当社の中でも、これはかなり驚くべきことでした。おそらく、簡単に素早く試すことができたからでしょう。まずは、いろいろなフィードバックをもらうために使ってもらいましたが、その後は徐々にユーザーが減っていくという現象が起きました。使いこなせるコアユーザーに絞られてきたんですね。やはり、AI技術と業務の両方の知識がないと、うまく使いこなせない。それがようやく噛み合ってきて、活用事例も増えてきています。

――いまやデータ分析力は専門家だけでなく、多くのビジネスパーソンに必要です。AI教育についてはどのように取り組んでいますか。

井上 当社では、大阪大学の協力を得て「AI教育プログラム」を導入しています。プログラムは半年間で全10回。1回3時間で、前半の1時間半が座学、後半は演習です。演習では、最終的に予測の確度を競うコンテストを開催しています。そして最後に論文を提出してもらいます。

 2017年度に約100人がプログラムを修了し、当社のAI人材の総数は300人を超えました。今後は年間100~200人が受講する予定です。育成したAI人材が今度は職場で教えるということも含め、2020年にAI人材を全社で1000人規模にしていきたいと考えています。

データ分析の力で
未来の暮らしを支援する事業へ

――データ分析をうまく活用している事例はありますか。

井上 いくつかありますが、代表的なものは工場の故障予測や店舗の需要予測・行動分析をはじめ、新しいデバイスを開発するためにどんな材料を使うべきかを探る「材料インフォマティクス」などです。

 また、パナソニックが米国シリコンバレーで進めているプロジェクト「HomeX」では、当社が持つ白物・黒物家電、住宅設備・住宅を組み合わせて、未来の住空間環境に向けたサービスを創出する取り組みを行なっています。単に製品同士だけでなく、光や映像、音、熱などとの組み合わせも考えられます。すでにデータが数百億件くらい集まっているため、クロス分析を掛けて新たなサービスやビジネスを創出していくことになります。

 例えば、洗濯機をインターネットにつなぐと、洗い終わりの通知を受けたり遠隔で操作したりできるようになります。帰宅したら洗濯が終わっているようにセットすれば、疲れているのに夜洗濯しなくてもいい。自分の都合に合わせられるというわけですね。そうやってお客様に使っていただいたデータが今、どんどんたまっています。このデータを新事業創出にどう生かすかが次のステップ。洗濯機単体で考えていてはダメで、快適で豊かな暮らしとは何かという大きな視野で考えたときに、このデータをどう使えるかが見えてくると思います。