武田 ウーロン茶は当時から一般的に飲まれていたんですか?
横田 いえ、それが違うんです。当時はお茶=日本茶でした。しかし、脂っこいものを食べるようになってきた時代だったので、すっきり飲めるものを売りたいと考え、中国でウーロン茶葉を見つけてきたそうです。実はウーロン茶って、中国ではそれほどメジャーなお茶ではないんです。ある地方では飲まれていますが、全国的ではないといいますか。
春香 そうなんですか!でも、日本では中国のお茶といえばウーロン茶と、当然のように思われていますよね。
武田 中国福建省といえば、ウーロン茶で有名ですものね。
横田 洋食や外食の機会が増えてきた時代に、ぴったりのお茶を提案したから、これだけ受け入れられたのだと思います。先見の明があったんでしょうね。
春香 時代の先を読んで、世界初の商品を世に出したんですね。まさにフロンティアスピリット。他にも大切にされている精神はありますか?
横田 伊藤園の創業から脈々と受け継がれている経営理念は「お客様第一主義」です。例えば、お客さまである販売店さんのところに私たち営業社員が商品を直接持っていきます。自ら商品を棚に並べますし、自動販売機も私たちが直接フォローします。
春香 えっ、自動販売機の管理もですか?
横田 はい、正社員が自販機の補充・代金回収までやります。いろいろなお客さまと接することで商売の基本が身に付く、それが伊藤園の原点だと思います。現場を見て生の声を聞くことが大切なんですね。私も最初にルートセールスを4年間やりました。
春香 4年もですか。それだけやると現場の感覚がしっかり身に付きそうですね。
横田 ルートセールスは伊藤園の原点です。たくさんの方とお話をすると、商品を1本買っていただくには、生産から販売まで多くの方のご協力があってこそだと気付けます。もっと良い商品をつくらなければと思いますし、もっとお客さまとコミュニケーションをしたいという気持ちになりますよね。
「お~いお茶」ネーミング変更で売上6倍!
春香 1985年には、今度は缶入りの煎茶も発売されました。途中から「お~いお茶」に名前が変更されたとのことですが、どんな経緯があったのですか?
横田 最初「缶入り煎茶」という名前で販売したのですが、お客さまから「マエチャって何?」と言われて。
春香 煎茶のセンが読めなくて、マエ(前)だと思われてしまったと。
横田 そうなんです。あとは、やはりお金を出して緑茶を買うという習慣も、まだまだ社会に浸透していなかったんです。そこで、もっとお客さまに親しみを持ってもらうにはどうしたらよいかと考えました。実はその少し前に、伊藤園のお茶葉のCMで、新国劇の俳優の島田正吾さんが「お~い、お茶」と呼びかけるものを放送していたんです。温かみのある口調で、評判が良かった。それならいっそ「お~いお茶」というネーミングにしようかということで、1989年に変更しました。
武田 ユニークですね。でも、けっこう勇気のいる変更ですよね。
横田 「お茶の間」という言葉もそうですが、私たちはみんなでお茶を飲むことに、家庭的なイメージを重ねますよね。「お~い、お茶」という響きには、皆さまの原体験の中での親しみがあり、それを商品と結びつければ、お客さまに身近に感じていただけるのではないかと考えました。
春香 たしかに身近に感じます。変更した結果はどうだったんですか?
横田 名前を変えてから6倍くらい売れたと聞いています。
春香 すごい!名前が変わっただけで、全然違うんですね。
武田 「お~いお茶」おいしいですよね。私もよく飲むんですが、いつもパッケージの裏に書いてある俳句を読んでしまいます。
春香 「また来るね砂に書いた夏休み」。15歳の作品です。この企画はいつから始まったんですか?
横田 この「お~いお茶新俳句大賞」は、1989年に商品名を「お~いお茶」に変えたのと同時に始まった俳句コンテストなんです。
春香 もう30年近くも歴史があるんですね。スタートしたきっかけは何だったのでしょう?