スーツをあつらえたら
それに見合う着こなしも大切
粟竹 スーツ生地を選ぶ際、やはり紺とグレーが基本です。無地の場合は、生地の高級感が分かりやすいので、その点に留意して選ぶとよいでしょう。
森岡 ただ、生地を選ぶ際、スワッチ(小さな生地見本)を見ても正直わからない方が多いと思いますが、派手に見えるものは避けたほうがよいでしょう。具体的に言うと、同じ紺の無地でも、光沢感はあってもいいのですが、過剰に光っているものはNG。夜っぽいイメージになってしまいます。またストライプ柄で言うとピッチの幅が太いものは派手に見えて浮ついた印象を与えてしまいがちです。チョークストライプなどもトップの方でしたら別ですが、管理職以外の方は避けたほうが良いでしょう。
紺とグレーはエグゼクティブが選ぶ生地として鉄板です。色味は濃いめの方が重厚感があります。グレーでもライトグレーは軽い印象を与えます。自身の年齢やポジションを鑑みて、またお店の方と相談して選ぶといいでしょうね。
粟竹 そもそもカスタムオーダーというのはビスポーク(be spoken)と言われるように、お客さまとの対話から作り上げていくものです。ですからお客さまもこのスタッフとなら話しやすいな、といった人を見つけ自分のことをわかってくれる人と作り上げていくことをお勧めします。
あと、見落としがちなのがシャツです。シャツのサイズが合っていないと上に着るスーツがどんなによくても決まりません。実はカスタムオーダーでは、まずはシャツを作っていただいて、その後スーツをあつらえるという流れがベスト。
シャツの袖が長すぎたり、首回りが緩すぎていたりするとだらしなく見えてしまいます。また身幅がありすぎるとシワが出てしまいますし、着心地が悪くなります。見た目だけでなく、心地良くないということで仕事のパフォーマンスも落ちてしまいます。
森岡 スーツの袖口からおよそ指1本分くらいの分量でシャツが見えているのが適正です。以前、シャツが袖口から見えているのと見えていないのとではどちらがバランス良くきれいに見えるか、実験をしました。すると10人中10人がシャツの見えている方だと回答しました。シャツの襟元と袖口とを結ぶ三角形のラインが作れると、着こなしがバランス良く見えるんです。
粟竹 シャツの襟元は苦しいと思われる方が多いようで、緩く着ている場合が多く見られます。しかしそれではネクタイがきちんと結べないのです。両サイドの衿の付け根をきちんと合わせて着用するのがベストです。
森岡 緩いシャツの上からネクタイを締めると、襟の付け根がズレてしまいます。やはり顔回りは印象を左右するので重要なポイントですから、シャツのネックサイズ、ネクタイの締め方と収め方には注意が必要です。シャツはスタンダードな襟型の白やサックスブルーをそろえておきましょう。
粟竹 そうですね。そして紺ベースのネクタイを着ければ失敗がありません。まずはストライプ柄のレジメンタルタイ、紺ベースに白のドット柄のもの、小紋柄と呼ばれる小さな柄が入ったものをそろえましょう。
森岡 品格のある安定したイメージに見せるためにはそうですね。着回しが難しいと思われるかもしれませんが、簡単な方法があります。シーズンの始めにスーツを3着用意します。例えば紺の無地、紺のストライプ、チャコールグレーの無地かストライプ。これを月曜、火曜、水曜とローテーションさせて着ます。木曜は初めに戻って、金曜、次の月曜とまたローテーションさせて着ます。一着のスーツに対してシャツを2、3枚用意しておく。ネクタイは地色が紺からブルーベースのものにして、ストライプや小紋柄にボルドーやグリーンやイエロー等の色目が入ったものを用意しておく。そうすると、いつも安定した着こなしが出来るうえ、同じ格好しかできない人にはなりません。
粟竹 ローテーションで着回していくとスーツも傷みにくいですし、服に悩む時間をかけたくないという方にとってもよいですね。先ほどお話しさせていただきましたベストが入ると、着こなしに変化がつけやすいのでお薦めです。またその場合、最初からスリーピースであつらえておくほうが、ベストを単品で追加購入するよりお得です。
森岡 ベストを着ることでVゾーンが狭くなるので、多少派手なネクタイを着けても悪目立ちすることがないという利点もあります。
あとはジャケット1着に対してパンツを2本作るというのもお勧めします。消耗品でもありますし、例えば1本の裾はダブルにして、もう1本はシングルに、といった遊びを加えてもいいですね。