地方は「人」の経済圏
〜セッション3<地域の魅力発掘>
セッション3には個性あふれる経営者が集結した。
株式会社グラフィットの鳴海禎造社長は、「和歌山で21世紀のホンダをつくる」と意気込むモビリティメーカーだ。2017年には商品第1号として折りたたみ式電動バイク「グラフィットバイク」を発売し、一年間で約3000台を売り上げるヒット商品となっている。
このほか、和歌山で古民家ゲストハウスを運営する株式会社古都里社長の豊原弘恵氏、農業を通じて北海道の魅力を発信する株式会社農業の未来研究所GMの森平和歌子氏、ソニーの企業内ベンチャーとして「舞台めぐり」プロジェクトを手がけ、アニメファンによる「聖地巡礼」ムーブメント牽引してきた安彦剛志氏、と登壇者は多士済々だ。
4氏からはそれぞれ、地方でビジネスを興すことの難しさと手応えが語られた。地方には、人、モノ、金のリソースが少ない一方、自然、空き家、歴史、受け継がれてきた文化や技術など、眠れる資源の潤沢さは都市の比ではない。一見なにもない場所すら、魅力あるコンテンツとひもづけば「聖地」という観光資源に化けるのだ。
ただし、こうした資源を活用するにはルールが必要だ。鳴海氏は「地方は公私が一体化しているので、寄り合いやボランティア活動など、仕事以外のつきあいが仕事に影響する。地域コミュニティに向き合わない限り仕事の成功はない」と語る。
しかしそれは同時に地方で起業することのメリットでもある。「東京が円の経済圏なら、地方は人の経済圏。お金だけに頼らずにビジネスを動かす方法論を学べる」とは安彦氏、「地方で成功すればどこでも成功する。経営者としてのステージが上がる」とは森平氏の弁。地域で汗をかいてきたプレーヤーならではの実感だろう。
写真左からモデレータの藤田功博氏(株式会社のぞみ 代表取締役)、パネリストの鳴海禎造氏(glafit株式会社 代表取締役)、豊原弘恵氏(古都理 代表)、森平和歌子氏(株式会社農業の未来研究所 General Manager)、安彦剛志氏(株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズ インタラクティブソリューションカンパニー 舞台めぐり担当)
「縦割り」を超える勇気
〜セッション4<自走する地域>
最後のセッションでは、地域をよりよくする持続可能な仕組みづくりについて熱いディスカッションが交わされた。
中でも、市民がまちづくりにオープンに参画する「自治体3.0」を標榜する奈良県生駒市の取り組みは特徴的だ。小紫雅史市長は、市民の自主的な活動を広げるために、行政マンが積極的に街に出て、市民とともに汗をかくことを重視する。その結果、福祉や観光などさまざま面で市民活動が着実に広がった。今後はここにビジネスをかけあわせ、経済を生む仕組みに昇華させるのが課題という。
NTTサービスエボリューション研究所の木村篤信氏は、福岡県大牟田市で高齢者が安全に暮らせる地域デザインの研究中だ。木村氏によると「福祉は人とまるごと向き合うもの。だからこそ、福祉・介護領域の専門人材だけでなく住民を巻き込む仕組みが必要」という。たとえば、高齢者に一律のリハビリを課すよりも、車が好きな人には、地域のカーディーラーと連携した「洗車で脚を鍛えるプログラム」を提案するといった工夫ができれば、リハビリのモチベーションも成果も格段に上がる。縦割りの発想を超えることで、地域サービスははるかに豊かになるのだ。
写真左からモデレータの村上臣氏(株式会社フィラメントCSO)、パネリストの小紫雅史氏(奈良県生駒市長)、古山隆幸氏(一般社団法人イトナブ石巻 代表理事)、木村篤信氏(日本電信電話株式会社 NTTサービスエボリューション研究所)、木継則幸氏(株式会社インフォバーン 一般社団法人サイクル・リビングラボ 理事)