世界のフードインフラへ。植物工場で農業の未来を拓く

#01 京都×農業

太陽の光も、土も、農薬も必要とせずに育つレタスが、いま世界の注目を浴びている。作っているのは京都の農業スタートアップである「スプレッド」。植物工場によって、いつでもどこでも野菜が作れる最先端生産システムを広めている。 同社が目指すのは「京都発・世界のフードインフラ」。京都から世界を見据えた、農業スタートアップの軌跡を追った。

宝石商から青果流通へ。そして自ら生産者に

――世界最大級の植物工場を設立し、“京都のスタートアップの雄”と注目を浴びる稲田さんですが、ご経歴を見るとかなり異色ですね。若い頃のキャリアは、なんと宝石関係の企業。その後、青果流通の世界に飛び込んだとか。

稲田(以下略):学生時代、昆虫が混入した鉱物の写真を雑誌で見て、鉱物の美しさ、不思議さに惹かれて夢中で勉強し、宝石鑑定士の資格も取りました。しかし就職後、バブルは崩壊。宝石が売れる時代ではなくなりました。たまたま転職活動中に出会ったのが、野菜流通の世界だったのです。スピード感と勢いに圧倒されました。宝石と違い、瞬時に価格が決まる仕組みも魅力的でした。青果の流通会社に転職してすぐ、「人々の生活に不可欠なこの青果流通を一生の仕事にしたい」と思ったほどです。

 ただ、流通システムへの素朴な疑問もありました。野菜の価格は需給バランスで決まるため、どんなにおいしくて高品質な野菜でも、需要量を上回ると安値が付く。逆に、品質の悪いものでも生産量が少ないと値段が跳ね上がり、消費者にとって納得のいかない結果となってしまいます。その一方で、例えば京都で野菜が余って値下がりしていても、東京や九州では不足していることもある。より需要の高い卸売市場を探して転送して売れば、野菜の価値は上がるわけです。そこで思い立ち、卸売会社を退職して独立。2001年に「トレード」という会社を設立して、野菜の転送事業に参入しました。

――広範囲に取引を行うことで、需給バランスをマッチさせ、野菜の価格が決定できるわけですね。スピード勝負のビジネスという印象がありますが、インターネットでやり取りしていたのですか。

 当時はもっぱら電話ですね。全国の卸売市場と連絡を取り合って、その日の野菜の入荷状況を調べるのです。市場間の情報を突き合わせると、どこでどの野菜がどのくらい不足するか分かる。余った野菜を集めて、夜中のうちにトラックを走らせ、各地の卸売市場に運び入れるというデイトレーダーのような仕事です。やがて関東、東北などにエリアが拡大。売り上げも伸び、5年後の2006年にはグループ全体で年商100億円に達しました。

 

●当連載「GLOCAL HEROES」について

テクノロジーの進化も後押しし、地方で起業することが必ずしもハンデとならない時代がやってきた。むしろ、創業の地を自らのアイデンティティとした、「地方発のユニコーン」が続々と生まれてくるに違いない。そこで当連載では、“GLOCAL”(GLOBAL+LOCAL)なニューヒーローにフィーチャーし、彼らの“Think Globally, Act Locally”なビジネスを紹介。創業期のスタートアップをPowerful Backing するアメリカン・エキスプレスとダイヤモンド社との特別企画としてお届けします。

TOP