世界のフードインフラへ。植物工場で農業の未来を拓く

#01 京都×農業

グループ総力戦で世界をめざす

――「逆転の発想」が功を奏し、2014年3月期に黒字化を果たしたスプレッドは、今度は次世代型農業生産システムを導入した第2工場「テクノファームけいはんな」を設立することとなります。日産3万株の自動化栽培は世界初だと聞いています。

世界のフードインフラへ。植物工場で農業の未来を拓く2018年11月に完成した第2工場「テクノファームけいはんな」。京都府木津川市のけいはんな学園都市内に建設。スタイリッシュな建物の中で、AIやロボティクスなどのテクノロジーを活用し、日産3万株のレタスを栽培している。

 新工場の「テクノファームけいはんな」では、ロボティクスやIoTを活用することで、育苗から収穫までの栽培工程を自動化しています。もちろん、まだすべての工程を完全自動化できているわけではなく、計量チェックや調整作業などは人間がやっています。

 ただし、私たちが目指しているのは世界です。スプレッドが開発した次世代型農業生産システム「Techno FarmTM」によって、世界中どこでも野菜が作れるようにしたい。海外には水不足の国もありますし、労働力を確保できない都市もある。気候もさまざまです。作業を自動化し、データから一元管理して環境整備、水処理ができる私たちのシステムは必要とされるはず。「京都発・世界のフードインフラ」になることを目指しています。

――単に生産量を上げるだけではなく、ノウハウを世界中に広げるための足掛かりが、第2工場建設だったのですね。この新工場は、「規模拡大」のみならず、「ビジネスモデル進化」の象徴でもあるように見えます。

 そうですね。なにしろ、植物工場の潜在ニーズは世界中にあります。例えば、先日商談でアメリカに行ったのですが、レタスの生産地はほぼ西海岸に集中している上、東海岸に届けるには5日はかかるそうです。鮮度の面で大きな課題があると感じました。また、アラブ首長国連邦(UAE)でも計画を協議中です。先日UAEの環境大臣が当社を訪れた際には、「中東における食糧安全保障を築いていきたい」と熱く語っていました。また、ヨーロッパ各国のパートナー企業ともコミュニケーションを重ねています。

 国内では、今後フランチャイズ事業を広げ、協力企業に「Techno FarmTM」を提供していきます。なお、今後展開する第3工場の商品販売先としては、外食産業やコンビニエンスストア、中食(なかしょく)産業を視野に入れています。生産性を上げ、原価を落とすことでさらに販路を広げたいですね。

――昨年10月には持株会社制に移行し、グループ5社を統括する「アースサイド」を設立しました。スタートアップとしては、まさに“セカンドステージ”を迎えたわけですが、ステップアップを決断した理由は何でしょうか。

 世界にスコープを広げ、スピーディに事業を拡大するには、グループ5社のパフォーマンスを「一つの大きな力」に置き換える必要があります。非効率な機能を一元化し、ヒト、モノ、カネを効率よく配置していきたいと考えています。

――スタートアップが大きくなる時、遠心力が働く代わりに、求心力が落ちることがあります。チーム全体のベクトルを合わせるため、どのような“ノーススター”(道しるべ)を掲げ、それをどうやって社員一人ひとりの中に落とし込んでいますか。

 アースサイドグループとして掲げているミッションは、「グローバルフードインフラを作り、世界の毎日を新鮮に彩る」。農業分野に革命をもたらし、持続可能な社会づくりをグループ総力で実現していこう、という思いを込めました。どんなにもうかる事業であっても、それが「社会に必要とされる事業」なのか――これは、起業家である私の根幹だといえます。ですから、新たな事業を立ち上げる時には、それを常に自問するようにしています。

 そしてもう一つ大事にしているのは、「私自身が現場に立つ」ことです。研究開発の現場にも、英語での折衝が必要な現場でもとにかく出かけていき、スタッフと一緒に課題に向き合います。ただし、できるだけ権限を委譲し、ボトムアップで事業を進めてもらうことも大切です。社長一人の力では、もはや会社は成り立ちません。これから世の中の変化のスピードはますます速くなっていきます。一人ひとりが自分のアイデアや持ち味を生かし、未来に向けて行動していくことが、グループをより強固にしなやかにしていきます。だから社員が失敗しても、とやかく言いません。何しろ一番失敗してきたのは、他ならぬ私なのですから(笑)。

 

*当連載「GLOCAL HEROES」は、アメリカン・エキスプレスとダイヤモンド社との特別企画としてお届けしています。

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【次回予告】第2回のGLOCAL HERO《福岡×医療》は、メドメインの飯塚統さんです(10月末に公開予定)。どうぞお楽しみに。

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