AIテクノロジーが医療の世界に新たな価値と衝撃をもたらしている。その一つが、時間のかかる病理診断を瞬時に行う画像診断システム。その分野で一躍、世界のフロントランナーとなったスタートアップが福岡にある。九州大学起業部の第1号ベンチャー「メドメイン」だ。その代表を務めるのは、起業家、開発者、現役医学部生という3つの顔を持つ異色の若手経営者・飯塚統氏。彼にメドメインの創業ヒストリーを振り返ってもらいつつ、近未来に描くビッグピクチャーまでを語ってもらった。
精密検査の常識を覆す
――シリコンバレーなどの著名なビジネスコンテストで優勝を果たし、世界をあっと言わせたのが、わずか1分と驚きのスピードでがんを見つけ出すAI病理画像診断支援システム「PidPort」です。精密検査といえば、診断結果を聞くまでにかなり待たされる印象がありましたが、その待ち時間を大幅に短縮する画期的なサービスですね。
飯塚(以下略):病理医は全国に2500人ほどしかおらず、多くの医療機関が病理診断を他院に依頼しているのが現状です。そのため、患者さんには診断結果が出るまでに1~3週間ほどの待ち時間がかかってしまいます。私たちが開発したPidPortは、独自のディープラーニング技術により、画像化した細胞や組織から短時間でAIが解析し、超高精度に病変の検出を行うものです。
実は、医療の世界はデジタル化があまり進んでおらず、病理では、患者さんの体から採取した細胞や組織のスライド標本を顕微鏡で見て診断を行い、他院の病理医にも確認してもらう必要がある場合には、そのスライド標本が送られて確認がされています。僕たちは、医療機関から送られてきた組織や細胞のスライド標本をすべてスキャナーに読み込ませ、高精度なデジタル画像に加工してから、AIによるデータ解析を行っています。よって、あらかじめデータ化しているため、他の病院との症例の共有もとてもスムーズになります。
――なるほど、「デジタル画像化」がこのサービスの“肝”というわけですね。
患者さんの体から採取した細胞や組織のスライド標本を、AI解析が可能な「データ」にするためには、この「デジタル画像化」が不可欠です。現在、弊社のスタッフは100人を超えていますが、その8割はデジタル画像化の関連スタッフです。そうした「体制」も、評価いただいている点だと思います。
――近年、「データはAIの燃料」などと言われます。多くのAIスタートアップが肝心のデータをなかなか集められず苦戦している、という話をよく聞きます。
僕たちは、九州大学はもちろんのこと、広島大学、順天堂大学をはじめ、国内外30以上の医療機関と提携しています。ディープラーニングの精度を高めるには、大量のデータが必要になります。どんなに優れたAI開発のアルゴリズムを持っていたとしても、データがなければ開発できません。ですから、僕たちは実績を少しずつ積み上げながら、提携先の拡大を進めています。