所要時間わずか1分。世界が認めたAI病理診断の革命児

#02 福岡×医療

物理マニアでものづくり好きの医学生

――ところで飯塚さんは、開発者、起業家であるとともに、九州大学医学部に籍を置く医学生でもありますよね。多彩な顔をお持ちですが、もともと好奇心が旺盛だったのですか。

 思い立ったら、何でもとことん究めずにいられない性格なんです。中学から高校時代にかけて、両親が庭の物置小屋を「好きに使っていいよ」と明け渡してくれたことがあります。早速、自分で改造工事し、そこに自分の部屋を作ることにしました。それがもう面白くて。学校そっちのけで朝から作業に励み、気付いたらまる1年以上、改造工事を続けていました。ようやく完成したものの、学校の出席日数が足りず、エスカレーター式で進学できるはずの大学進学は厳しくなりました(笑)。

 子どもの頃から習っていた馬術も好きでしたね。毎週末、熱心に通って練習していました。全国ジュニア選手権では2回、3位を取っています。

 でも、中学・高校時代に一番ハマったのは、物理学でしょうか。愛読書は科学雑誌『Newton』で、宇宙特集などは夢中で読みました。ニュートンやアインシュタインの伝記も大好きで、「物理学者ってかっこいいな」と憧れていました。

――それなのに、なぜ医学部に進んだのですか。どうして九州大学だったのでしょうか。

 もともとは物理学科へ進学して素粒子物理学者になることを目指していたのですが、転機がありました。18歳の時、持病の腎臓病で入院したのがきっかけです。長期入院だったのですが、自分の体がいまどうなっているのかよく分からないのが歯がゆくて、次第に「自分の病気を自分で診られるようになりたい」という思いを持つようになりました。診ていただいた医師や看護師が懸命に働く姿にも影響を受けて、人の命のかかわる仕事というのはとても素敵だなと思いました。

 といっても、なりたかったのは臨床医ではなく、研究医です。医学の研究は細分化が進んでいると言われますが、僕は体系立った研究も必要だと考えています。というのも、僕が好きな物理の世界は細分化とは真逆で、原理から法則、公式を導き出すという非常に体系的な学問です。医学も体系的に研究すれば、今まで見えなかった世界が見えてくるんじゃないかと思いました。

 そこで医学部を志すようになったのですが、全国にいろいろな大学がある中で、僕は九州大学を選びました。九州大学は昔から理工系に強く、有名な教授がよくテレビに出ていたのでずっと注目していたからです。福岡という立地もよかったです。僕は東京出身なのですが、実家を離れるのであれば、今まで住んだことのない、遠く離れた場所に行ってみたかった、というのもあります(笑)。

――医学部医学科に入学後、「九州大学医学部物理学科」という非公認サークルを立ち上げたとか。これが今のメドメインの母体と聞いていますが。

 同じ医学科で、もともと物理学科を目指していた友人がいたんです。「じゃあ一緒に物理を勉強するか」ということで、講義終了後、一緒に活動するようになりました。ところが途中から、活動内容は医療ソフトの開発が中心になっていきました。きっかけは、所属していた数理医学研究室で覚えた、数理解析に必要なプログラミングです。友人も同じ研究室にいたので、「自分たちでプログラミングして、医療分野で役立つソフトを作ってみよう」と思い立ったのです。途中からほかに数人の仲間が加わり、活動は本格的になっていきました。

飯塚 統 (いいづか・おさむ)
メドメイン 代表取締役CEO

1991年生まれ。東京都新宿区出身。九州大学医学部在学中。シリコンバレーの「Live Sharks Tank」など、世界的なビジネスコンテストで優勝を果たす。その後、起業に向けて大学を休学し、ウェブエンジニアとしてベンチャー企業にも勤務。2018年1月に医療ITスタートアップ Medmain Inc.(福岡市)、5月にMedmain USA Inc.(米国)を設立。AIを活用した病理診断支援システム「PidPort」を開発し、サービスを提供開始。国内外30以上の医療機関と提携し、病理診断分野で世界のフロントランナーとなっている。(写真:前列左から2番目が飯塚氏)
 

●当連載「GLOCAL HEROES」について

テクノロジーの進化も後押しし、地方で起業することが必ずしもハンデとならない時代がやってきた。むしろ、創業の地を自らのアイデンティティとした、「地方発のユニコーン」が続々と生まれてくるに違いない。そこで当連載では、“GLOCAL”(GLOBAL+LOCAL)なニューヒーローにフィーチャーし、彼らの“Think Globally, Act Locally”なビジネスを紹介。創業期のスタートアップをPowerful Backing するアメリカン・エキスプレスとダイヤモンド社との特別企画としてお届けします。

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