「注文住宅なのに思い通りの家がつくれない」「人手が足りないが外部人材に仕事を任せるのは不安」。一般の人はもちろん、業界関係者にとってもジレンマだらけの建設業界。だが、ここにきて長年のジレンマを打ち破るスタートアップが現れた。名古屋のスタートアップ、スタジオアンビルトだ。建築家やデザイナーなど、プロのスキルをオンラインで“直販”し、ブラックボックス化した業界に新風を吹き込む。代表を務める森下敬司氏に話を聞いた。
建築家を志すきっかけは
田舎町で出合った巨匠の作品
――建築のプロたちがネット上に集まるウェブサービス「STUDIO UNBUILT(スタジオアンビルト)」が業界で存在感を放っています。仕事を外注したいハウスメーカーや工務店と、フリーランスの建築士をマッチングすることで、建設業界が抱える慢性的な人材不足という根深い問題を一気に解決できる画期的なサービスですね。
森下(以下略):「スタジオアンビルト」は、建築士、デザイナー、CADオペレーターなど、多種多様な建築専門家を探せて、契約から納品までサイト上で完結するBtoBのマッチングサイトです。登録者は全国4800人超。「人手が足りない」「専門家に仕事をアウトソーシングしたい」というとき、オンラインで人材を探し、直接仕事を発注できます。「マンションの図面作成」「外観のCGパースの制作」など、依頼したい仕事に合わせて最適な人材を探せます。公募してもいいし、スキル別に検索して個人を指名することもできるんですよ。
――ほかにも、一般の施主と専門家をつなぐBtoCのマッチングサイト「madree(マドリー)」を展開されていますね。2019年1月には、ベンチャーキャピタルなどから1.1億円の資金調達にも成功し、注目を集めました。これらサービスの詳細は後で伺うとして、まずは森下さん自身のご経歴を教えてください。
出身は岡山県です。吉備中央町という、田んぼと畑ばかりの田舎町で育ちました。ところが小学生ぐらいのとき、その町に見たこともないような外観の建物が現れたのです。金属の素材がたくさん使われていて、隣接する庭には円形の回廊が浮いている。「きびプラザ」という複合施設なのですが、実は建築業界の巨匠、黒川紀章さんの設計だったことを後で知りました。それまで人が集まる場所もなかった田舎町に魅力的な拠点ができて、初めて賑わいというものが生まれていった。「建築家の仕事ってすごいな」と圧倒されました。
――それがきっかけで建築に興味を持つようになったと。高校卒業後は名古屋工業大学に進んで、建築デザインを学ばれていますね。
当時は、設計のコンペに応募しては、いろいろな作品を作っていました。何回か入賞したこともあります。徹夜ばかりしていたけれど、ゼロから何かを考えてつくりあげていく作業はとにかく楽しかったです。単に建築という構造物を設計するだけでなく、人々がそこで過ごす時間に思いをはせることで、文化や歴史が育まれる空間になっていく。建築の持つ可能性にどんどん引き込まれていきました。