「あえて特許を取らない
部分をつくる」という
戦略も有効
知財にはまた、オープン&クローズ戦略、と呼ばれるものがある。
オープン戦略とは、無償もしくは安価で他社に知財を開放すること。クローズ戦略とは、知財に関する情報を完全に独占することだ。オープン&クローズ戦略とは、その二つを組み合わせた戦略である。まずオープン戦略によって知財を公開し、他社の市場参入を誘導する。市場を活性化させた後、クローズ戦略で自社の要となる技術、知財を完全非許諾(実施の非公開)とする。すると他社との差別化が図られ、自社の利益の最大化も図れるのだ。
その戦略をユニークな形で実行しているのが、ザ コカ・コーラ カンパニーだという。
「コカ・コーラでは、原液以外は全て現地での生産、配給となるため、アトランタ(米国)の本社は基本的に原液を無料で提供。その代わり、販売者から商標使用料として30%を取っているといわれています。原液の売り上げでは儲けず、商標使用料で稼いでいるのです。しかも、知財の世界では有名なのですが、コカ・コーラの原液のレシピは特許で守られていません。特許を出願すると内容が公表されてしまうため、あえて特許を取得せず、ただ、“門外不出の秘伝のレシピ”を誰にも明かさないことを徹底しているのです」(正林所長)
この仕組みを表したのが図表4である。コカ・コーラという商標はしっかり守り(Patent Right)、原液のレシピは特許権を使わずに保護(Patent Left)。ある意味でオープンとクローズを巧みに使い分けながら、高い知財意識で大きな儲けを上げている。
知財を戦略的に活用して成果を得ようと考えるなら、特許や商標を取得して知財を独占、防衛することも大事だが、「あえて特許を取らない部分をつくる」方法も有効なのだ。
もっとも、知財をマネタイズするためには、前提として企業が独自の技術やサービスを所有していなければならない。だが企業は自社の長所を発見するのは苦手なものだ。
特に製造業ではないサービス業は、目に見えるプロダクトがないため、それが知財になるかどうかの判断が難しい。ビジネスモデルで特許を取ろうとして、よく検証したら「実は特許を取れるものが何もなかった」という場合もある。逆によくあるものを組み合わせて、これがビジネスモデルになるのか?と思っても特許が取れる場合もある。
「特許が取れる“売り”の部分というのは、本当に儲かって継続することができる部分のことで、企業の“芯”のようなものです。芯がなければロウソクは燃えないように、芯がなければ企業は成長できない。その芯の部分を発見し、マネタイズするのが私たちの役割なのです」(正林所長)