Winning in a Disruptive World
創造的破壊の荒波の中で
正しい戦略をいかに選択するか

Finance Leaders Summit 2019

いますぐエース級人材を
シリコンバレーに配置せよ

Winning in a Disruptive World創造的破壊の荒波の中で正しい戦略をいかに選択するかDNX Ventures
インダストリアルパートナー
山本 康正

 第2部では、シリコンバレーに在住し、ベンチャーキャピタリストとして活躍するDNX Venturesのインダストリアルパートナー、山本康正氏と、日本の資本主義の父、渋沢栄一の5代目の子孫であり、コモンズ投信取締役会長兼ESG最高責任者を務める渋澤健氏をスピーカーに迎え、イノベーション創出のための環境整備の重要性とそのための投資のあり方などについて語ってもらった。

 山本氏は冒頭で、ニューヨーク5番街の様子を撮影した2つの写真を投影した。馬車が走る1900年当時と自動車が走る13年当時を比較して、「わずか13年で馬車は自動車に取って代わられました。テクノロジーは音も立てずにビジネスを一変させるのです」と警鐘を鳴らした。

 同じようなことが現代でも起きている。約10年前にiPhoneが日本で発売された時、国内メーカーは相次いでワンセグ携帯を投入し、画質の高さをアピールした。しかし、いまワンセグ携帯を使っている人はほとんどいない。「オセロゲームに例えれば、盤面の角を取れていないので、後でひっくり返されたのです」と山本氏は指摘する。

 ディスラプションの波はあらゆる業界に広がり、今後もモビリティ、小売り、金融、動画、ゲームなどの業界でオセロがひっくり返されると予想される。たとえ優れたコンテンツを持っていたとしても、グローバルなプラットフォーマーに利益を持って行かれてしまうため、日本にとっては非常に不利な状況だという。

 こうした日本の現状を生み出しているのが、ベンチャー企業を支援する環境整備の遅れだ。ベンチャー投資の実行額、ファンドの組成額の国際比較を見ても、日本は米中に大きく劣後している。その結果、ユニコーンの数は米国の106社(2017年時点)、中国の164社(18年時点)に対して、日本はわずか3社に留まる。

 日本のベンチャー育成環境はなぜ遅れているのか。山本氏は「長期的に支援する投資家の不足」「グローバル市場への目線、能力がある経営者の不足」「テクノロジーに対する大企業の評価ミス」の3つを理由に挙げる。

「スタンフォード大学を発信地としたシリコンバレーのインパクトは、もはや全業種に及んでいます。一見さんお断りの人間関係は京都に近いものがあり、日本企業もいますぐエース級の人材をシリコンバレーに配置し、地道にネットワークを構築すべきです」とアドバイスする。

 山本氏が「1つだけ覚えて、帰ってほしい」と前置きして投影したのが、テクノロジーの俯瞰図だ。さまざまなテクノロジーが生まれる中で、それらがどう組み合わさっているのか、現時点におけるスナップショットを頭に入れつつ、10年後、20年後にどうなっているのかを考える習慣をつけることが大事だと力説した。

 テクノロジーの浸透は、「ハードウェア×ソフトウェア×サービス=消費者の満足度」の公式で説明ができると山本氏は言う。これを自動車業界に当てはめると、これまでは車を売り切るモデルで消費者の満足度を獲得していた。そこにはソフトウェアは存在しない。しかし、自動運転の技術が進展することで、24時間稼働する車とモバイル端末というハードにアプリが掛け合わされば、自動運転タクシーとして稼働させることで車の所有者は手数料を得られ、タクシー利用者の満足度が向上する。このため、自動運転は加速度的に浸透していくと山本氏は見る。

 米自動車メーカー最大手のゼネラルモーターズ(GM)は、ディスラプションに対する強い危機感から、マサチューセッツ工科大学出身の20代の天才的エンジニアが立ち上げたベンチャー企業、クルーズを約10億ドルで買収、自動運転車開発をこの会社に賭けた。「そうした危機意識を日本企業も持つべきです」と山本氏は語った。

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