SDGsはある意味で破壊的
だからこそ新しい価値を生む
「世代を超える投資」という思いからコモンズ投信を設立した渋澤氏は、長期投資家の立場から「イノベーション時代に求められる企業の持続的な価値創造」について語った。
「外部からの刺激やディスラプションによって、新しい価値が生まれます。例えば、SDGsはよくよく考えるとディスラプティブです。従来は、利益を追求してさえいればよかったのが、いきなり17の目標に取り組まなくてはならなくなった。『できっこない』というのが、多くの企業にとって最初の反応でしょう。とはいえ、最近は自社の事業に紐づけて、目標達成に取り組む企業が増えてきました」
兼 ESG最高責任者
渋澤 健氏
ただ、SDGsの本質的役割は、未来から逆算して打ち立てられた壮大な計画、ないしは挑戦を意味する「ムーンショット」にあると渋澤氏は言う。
「長期投資家として、なぜ企業がSDGsに取り組む必要があるかを考えるとき、誰一人取り残さないという人道的理念はもちろん大切ですが、いまの事業の延長線上では見えなかった新しい価値の可能性が、17の目標のなかに散らばっていることに意義がある。SDGsは新しい企業価値を発掘するツールとして活用すべきです」と話す。
時代が変わっても、変わらぬ真理は「今日よりも、よい明日」を願う希望や期待だ。それを実現するには、いまの自分の利益も重要だが、世代を超える長期投資が必要だ。コモンズ投信では、持続的価値創造に投資をするために、収益力だけでなく、競争力や経営力、対話力、企業文化などに注目して、投資価値を判断している。
これらの判断基準のうち、数値化できるのは収益力だけ。残りは見えない価値、すなわち非財務的価値である。これをいかに評価するか。そのヒントはPBR(株価純資産倍率)にあるという。
「企業の財務的価値と株価がイコールであればPBRは1倍になります。1倍を上回っていれば、非財務的価値が評価されて、プレミアが乗っている状態。1倍未満だとすれば、非財務的価値が財務的価値を毀損していることを意味します。そうならないためには、市場との対話機会を積極的に持つべきです」
21世紀は左脳だけでは戦えない、左脳と右脳の両方が必要だと、『モチベーション3.0』の著者として知られる作家、ダニエル・ピンクは10年以上前に説いた。これは、渋沢栄一の『論語と算盤』に通じる思想だ。
渋沢栄一は資本主義の父と称されるが、本人は資本主義という言葉を使わず、合本主義と言っていた。
「さまざまなステークホルダーが共感によって寄り集まり、共助によってお互いを補って、今日よりもよい明日を共創する。それが合本主義です。面白いことに米国でも株主価値だけでなく、ステークホルダー価値が重視される時代になりました。いろいろなディスラプションがある一方で、合本主義という近代日本経済の原点を見つめ直すことが求められているのではないでしょうか」。渋澤氏はそう締めくくった。