──藤平さんはソフトバンクでデータ活用支援などの法人向け事業を推進する一方、2019年9月に博報堂、およびソフトバンクグループ傘下の英Armの3社合弁でインキュデータを立ち上げられました。
藤平 ソフトバンクが持つさまざまな統計データと博報堂が持つ膨大な消費者データ、そしてArmのカスタマーデータプラットフォーム「Arm Treasure Data enterprise CDP」などの先進テクノロジーを掛け合わせて、マーケティング領域を中心としたデータ活用の戦略立案からデータ活用基盤の構築・運用、さらには各種施策の実行までをワンストップで支援することを目的にインキュデータを設立しました。
5、6年前からソフトバンクでデジタルマーケティングを担当しており、Treasure Dataを活用していたのですが、Armが買収したので今はソフトバンクグループの製品としてお客さまにご紹介しているところです。
しかし、お客さまにきちんと効果を出していただくためにはツールを提供するだけでは足りません。使いこなすためにはデータドリブン経営を実践しないといけない。そこの部分はソフトバンクがノウハウを持っているので、データを使った事業戦略の立案から支援します。また、お客さまのデータを駆使したマーケティング活動のノウハウは博報堂が提供するといった形で、それぞれの強みを生かしてお客さまのデジタライゼーションを支援しています。
ちなみに、DataRobotのツールを使ったPoC(概念実証)はソフトバンクでもいろいろとやっていて、他のAIツールと比較しても一番いい結果が出ているんですよ。DataRobotは、データをどう見るかといった細かい部分のチューニングが非常にうまい。その結果に基づいて意思決定した施策に関しては、とても納得感があり成果につながりやすいと感じています。
発売前の新製品の売れ行きをAIで予測する
シバタ インキュデータとDataRobotが力を合わせれば、お客さまがAI・データの最適な活用法を見つけ、その成果を形にして世に出すところまでのプロセスをトータルで支援できると思います。
例えば、最近は新商品の需要予測に注目されているお客さまが多く、当社ではそうした案件をサポートすることが増えています。需要予測の中でも特に注目度と難易度が高く、生み出す価値が大きいのが、「まだ出していない商品がどのくらい売れるのか」の予測です。
──販売していない商品の売れ行きを予測するのですか。
シバタ はい、商品企画の段階で、データに基づく需要予測を知りたいというご要望です。すでに何社かのお客さまでいい実績が出始めています。例えば、飲料などは予測に使う基本的なモデルは同じで、パラメータとして材料を変えることで異なる商品に対応します。化粧品も同じで、材料など定量化できる部分が意外と多いんですね。逆に難しいのはファッションをはじめ、トレンドが大きく影響する商品です。
こうした試みの全てがうまくいくわけではないのですが、効果が出る部分に関しては少しずつ成功を重ね、知見を蓄えながら取り組みを大きくしていくという活動を地道に重ねるお客さまは増えています。それによって独自のデータの組み合わせ方、AIの使い方が生まれてくるのだと思います。
そのため、最近はDataRobotのツールを使って何をしているのかを詳しく教えてくださらないお客さまが増えています。「このノウハウが自分たちの強みになってきたので、もはや企業秘密です」とおっしゃるのです(笑)。
──日本では多くの製造業が、プロダクトアウトの商品開発プロセスをマーケットイン型に転換させなくてはならないという危機感を持っています。そうした経営課題の解決においても、データ活用が大きな鍵となりそうですね。
シバタ DataRobotは製造業をはじめ、さまざまな業界のお客さまにご利用いただいています。それらのお客さまの現場で並走しながら支援していくためにはドメイン固有の知識が不可欠です。そこでDataRobotでは社内に各業界のスペシャリストを置き、それぞれが知見を深めてお客さまのビジネスをよく理解するデータサイエンティストを育てています。DataRobotを使うとさまざまなインサイトが得られるのですが、それをそのまま受け取っていいのか、気を付けることはないかといった判断にドメイン知識が必要になってくるのです。
藤平 データマーケティングの領域において、インキュデータはスペシャリスト集団です。DataRobotのドメインスペシャリストとタッグを組むことで、日本の製造業のマーケットイン型への転換をぜひサポートしていきたいですね。
──両社の連携は、さまざまな業界に新たな価値をもたらしそうです。本日はありがとうございました。