“データ×AI”活用の早道は「失敗から学ぶ」こと
早くスタートした企業が、競争優位を生む

トレジャーデータとDataRobot による特別対談

データが大きな経済価値を生み出すデータエコノミーとAI(人工知能)革命が同時進行する中、データとAIの関係性や相互作用があらためて注目されている。経営者が理解すべきデータとAIの関係性の本質とは何か、またAI活用にチャレンジする企業が留意すべき点は何か──。トレジャーデータの芳川裕誠氏とDataRobot Japanのシバタアキラ氏が語った。

さまざまな業界でAI活用の動きが活発化している

──お二人は海外企業のデータ活用、AI活用の状況についてよくご存じだと思いますが、日本と海外で大きな違いはありますか。

シバタ 全体として極端な違いがあるとは思いませんが、業種による活用状況の違いはあります。グローバルで見るとDataRobotのお客さまは金融業界の割合が非常に高く、約半分を占めます。一方、日本に関していえば金融業界の割合は20%程度です。

 日本のお客さまで高い割合を占めているのは製造業ですが、それ以外の業種もバラエティーに富んでいます。製造、金融を除くと、ヘルスケア、保険、小売・流通業の割合が同程度です。日本では多くの産業分野でAI活用に向けた動きが同時進行しており、まさに“第4次産業革命”が起きつつあると感じます。

芳川 トレジャーデータは米国・シリコンバレーで3人の日本人によって創設されたという少し変わった経緯を持ち、米国と日本の両方をマザーマーケットにしています。当社は現在、「顧客を知り、市場を知るためのデータ解析・活用基盤“カスタマーデータプラットフォーム”」の開発・販売を行っており、お客さまは小売業や消費財メーカーが多くを占めます。

 日本と海外の違いについては、欧米のグローバル企業はプロジェクトの規模が非常に大きいということはいえると思います。欧米の大企業は社内にたくさんのITエンジニアを抱えていることが、規模の違いを生む大きな要因の一つです。ただ、規模やアジリティが異なるだけで、日本企業はデータ活用が遅れているということではありません。

シバタ 最新AIの研究開発という点では、米国や中国のITジャイアントが巨額の資金と大量の人材を投入しており、日本を大きくしのいでいることは確かです。しかし、ビジネスでの活用という面では極端な差はないという印象を持っています。だからこそ、今から本気でAI活用を始めれば、世界でも最先端まで行けるんじゃないかと思います。

 当たり前のことなのですが、ビジネスのコア領域で活用するほどAIがもたらすインパクトは大きくなります。例えば、製造業でいえば研究開発の領域です。膨大な研究データをAIで分析して、革新的な素材の開発につなげる「マテリアルズ・インフォマティクス」と呼ばれる手法が発達しつつありますが、これまで何十年もかかっていた研究開発期間が一気に短縮される可能性があります。

 医薬品業界における創薬や金融業界における与信なども同じで、多くの時間をかけてたくさんの試行錯誤を繰り返している領域でAIを活用すれば、成果を上げるまでのプロセスを高速回転させられるのです。

芳川 データやAIの活用に取り組む上で、経営者の方々にまず意識していただきたいのは、今から5年後、あるいは10年後にはビッグデータやAI活用は当たり前になっているということです。当たり前過ぎて、ビッグデータやAIという言葉はビジネスのキーワードではなくなっているでしょう。

 ただ、間違えてはいけないのは、テクノロジーはあくまでもイネイブラー(enabler、何事かを可能にするもの)であって、テクノロジー活用がビジネスの目的ではないということです。どんな目的のためにビジネスを行っているのか、どのような課題を解決するのか。それが明確になっていてこそ、AIによるビッグデータ解析が目的達成のためのイネイブラーとして生きてくるのです。

──最新のテクノロジーツールをそろえること、とにかくデータサイエンティストの数を増やすことを急いでいる企業もあるようです。

芳川 それはディスラプターに対する恐怖がもたらしているリアクションかもしれません。本来のビジネスの目的は、データサイエンティストを増やすことではなく、別のところにあるはずです。

シバタ データサイエンティストやツールを増やすより、自社のビジネスの中でAIの活用事例、ユースケースをどんどん増やしていった方がいいでしょう。最初は小さな成功事例でいいのです。それを積み重ねていくことで、やがては先ほど申し上げたようなビジネスのコア領域に活用を広げることができ、大きな成果につながります。

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