ICT業界だけではなく、経営やビジネスの世界でも流行語となってきた「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。しかし自社に置き換えると、実際に何に役立つのかよくわからない人も多いのではないか。本記事では、人材開発会社のパーソルキャリアが、DXをサポートするKDDI DIGITAL GATEと組むことで、1年足らずのうちに新サービス開始にこぎつけた事例を紹介する。DXに取り組むメリットが見えてくるはずだ。
ゼロからの新規事業開発のための「共創」という選択
KDDI DIGITAL GATE(以下、DIGITAL GATE)はKDDIの一部門で、顧客のDXを支援する「5G時代のビジネス開発拠点」である。今回紹介するのは、顧客である人材サービス会社・パーソルキャリアがDIGITAL GATEの支援を受けて開発した「HR Spanner(エイチアールスパナー)」(β版)だ。これはパーソルキャリアが提供する、オンボーディング支援をコンセプトとしたツール。オンボーディングとは、新卒や中途入社、あるいは異動で組織に加わった人が新しい環境にスムーズに適応し、戦力として一人前になるまでの過程をサポートするという考え方だ。「HR Spanner」は社員へ職場の悩みや現状についてのアンケートを配信したり先輩との面談を促したりといった機能を有しており、従来、人中心で対応していた社員へのケアを支援する。
サービス企画開発本部 サービス企画統括部 エキスパート 大澤侑子氏
この新規事業を開始するにあたり、パーソルキャリアが目を付けたのがDIGITAL GATEである。パーソルキャリアではこれまでサービス開発時には自社で必要な機能や要件を決めて外部に開発を依頼するケースが多かった。それゆえに、ゼロからの新規事業立ち上げを内製開発で取り組んだ事例はほぼなかった。「採用支援の周辺領域にあたる、定着と活躍支援をテーマにして法人に提供できる『何か』を作りたい。さらに、コンセプトは明確にしつつ、自社でのサービス開発も見据えて、デザイン思考や最先端の事業開発手法を吸収したい」。こうした考えもあり、DIGITAL GATEでの支援を前提にKDDIへの依頼を決断したという。
パーソルキャリアでサービス企画開発本部 サービス企画統括部 エキスパートを務める大澤侑子氏は、DIGITAL GATEを選択した理由を次のように説明する。
「一度は自社でコンセプト策定から開発までを一気通貫で行おうと試みたのですが、機能の細部にわたるまでがユーザーの目線に立てているか、確信を持つことができませんでした。そこで、外部のノウハウや知見を取り入れることにしたのです。複数社を検討する中で、DIGITAL GATEのメンバーからは提案段階からさまざまな知見と事業開発の経験・ノウハウなどを伺い、この人たちと共に取り組んでいけばよい方法が学べ、また当社に持ち帰ることができるという実感が持てました」(大澤氏)
相談から1カ月でプロトタイプが完成
DIGITAL GATEでは、まずクライアントと目標を定め、ユーザー(利用者)の抱える課題の明確化を行い、解決策を描くワークショップを行った。その後、ワークショップの結果に沿ってプロトタイプの開発を進めるというプロセスを採用している。さらに顧客が望めば、商用サービスのインフラ提供まで行う。デザイン思考のワークショップを行う企業は多いが、サービスのコンセプト作りから商用開発までを受け入れて「最初から最後まで一緒に走りきる」体制が整っていたのも、DIGITAL GATEを選んだ決め手の一つだったという。
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2018年12月にDIGITAL GATEで開始したプロジェクトは翌年1月後半にワークショップ、その後約2週間でプロトタイプの開発というスケジュールで進み、このプロトタイプを基に、パーソルキャリアは同年9月に「HR Spanner」のβ版をリリースした。大澤氏はその結果を、「事業開発初心者なので、当初はDIGITAL GATEでのプロジェクトのアウトプットが予想できないことが不安でした。しかしフタを開けてみると、ワークショップから開発までのプロセスを通じてターゲット層を明確にでき、各種画面デザイン・機能など細部まで思想が行き届いた設計になりました」と満足そうに語る。