共創成功のカギは顧客の「ブレない軸」
とはいえ、アジャイル型企画開発を採用すれば短期間で満足のいくプロダクトが必ず完成するわけではない。スピーディな開発を実現できない、プロトタイプを開発しても社内でのテストや調整が難航した、というケースは枚挙にいとまがないだろう。
では、アジャイルでサービスを「開発しきる」ために欠かせないものとは何か。ワークショップのファシリテーターを務めた KDDI DIGITAL GATE OSAKAビジネスデザイナーの宮永峻資氏は、「判断軸を持つこと」の重要性を強調する。
KDDI DIGITAL GATE OSAKA
ビジネスデザイナー 宮永峻資氏
「大澤氏はワークショップ開始時から、『入社した人材を企業に定着させるサービスを提供したい』という明確な熱意を持っていました。その背景もしっかり理解されており、サービスに対する確固とした判断軸があったんです。与えられた仕事をこなすだけではこうした意思決定は非常に難しいですが、アジャイル型企画開発でどのような仕様にするかを意思決定するためにはこれらの要素が欠かせません。ワークショップではこのマインドを育みつつ、プロダクトで実現したいことを明確にします」(宮永氏)
開発段階においても、たった10日間で何ができるのだろう? というのが率直な感想だろう。だが、ここでも顧客の持つ「軸」が重要な役割を果たす。「作りたいものがわかっていなくても、検証したいことが何かがはっきりしていれば、それを実現できるものが作れます」(佐野氏)。
テスト期間に提供するものを必要最小限に規定するというこのMVP(Minimum Viable Product)という考え方について「どこを検証したいのかという軸で選定すれば、作るもののスコープ(範囲)を必要最小限まで決められる。この考え方は目からウロコでした」と大澤氏は言う。
経営層の的確な判断がスピーディな開発を後押し
佐野氏も「大澤氏には確固たる軸があるので質問には即答してくれるし、その場で即決できない際にも『社内のことは調整するのでこれで進めてほしい』と判断を保留にしなかった」とスムーズな開発ができた背景を振り返る。
このように書くと「大澤氏が優秀なだけでは?」と思われるかもしれないが、ブレない軸を確立し、それをもとに行動できるかどうかは、組織によるところも大きい。
「プロトタイプ開発のサイクルを高速で回せたのは、現場にいる自分に権限を委譲するという経営層の判断のおかげでもあります。また、新規事業開発には大きなパワーが必要ですが、開発責任者が兼務にならず存分に力が発揮できる社内環境を整えるなど、マネジメントが果たす役割も非常に重要です」(大澤氏)