短期間でのサービスリリースを実現するアジャイル型企画開発
「HR Spanner」の開発で目を引くのは、何と言ってもプロジェクト期間の短さだ。数カ月、ものによっては数年単位の時間がかかることも珍しくない大企業のサービス開発において、わずか1カ月余りでプロトタイプまで完成させている。工程の内訳としては、ワークショップに2日、それから5日間×2回のプロトタイプ開発(間に5日間のインタビュー期間を含む)。ここでいけそうだという手応えをつかんだことで、9月のβ版リリースへつなげている。
短期間での開発を可能にしている大きな理由に、近年のサービス開発で注目を集めている「アジャイル型企画開発」の採用がある。今回のプロジェクトの開発チームを指揮したKDDI株式会社 経営戦略本部 KDDI DIGITAL GATE マネージャーの佐野友則氏によれば、そのメリットの一つは、従来のウォーターフォール開発で作業の妨げになっていた煩雑な意思決定の手順を削減できることだ。
KDDI DIGITAL GATE
マネージャー 佐野友則氏
「ベンダーに仕事を依頼するという形のウォーターフォール開発では、要望を文書化した仕様書が必要となり、複数の人を間に挟んだ『伝言ゲーム』が生まれてしまいます。しかしわれわれは、ワークショップで明確化したクライアントの要望を直接聞いて、その日のうちにプロトタイプを仕上げます。もちろんあらゆるシステムをきっちり作るわけではありませんが、余計なやりとりを挟まないことで、検証すべき本質的なポイントをテストできるプロダクトをお渡しできるんです」(佐野氏)
KDDIでは2013年からアジャイル型企画開発に注力しており、2016年にアジャイル開発センターを立ち上げている。自社サービスの開発にアジャイルを取り入れる割合も増えてきており、「迅速な開発をスムーズにこなせているのは、長年の積み重ねのおかげ」と佐野氏も自信を見せる。
朝打ち合わせた内容がその日のうちに成果物として見える
プロトタイプ開発期間は、毎朝その日の成果物(プロトタイプ)について大澤氏と議論し、夕方には出来上がったプロトタイプを確認するというサイクルを10日間繰り返す。また、5日間ずつのプロトタイプ開発の間に実施したユーザーヒアリングではあらゆる職種・規模の会社で実際にプロトタイプを触ってもらい、導入する機能やUIに関するフィードバックを得ていった。「既存のベンダーであればまだ仕様書すら出来上がっていないであろう時期に、ある程度稼働するプログラムを毎日渡していただけたのは、衝撃でした」と大澤氏。
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