点ではなく、面を押さえる
石川発の成功モデル
――なるほど、それで蔵元の情報をダイレクトに飲食店や小売店、一般消費者に届けるサービスを思いついたわけですね。
はい。まずは蔵元を回って商品を登録してもらい、その情報を集めて飲食店や小売店向けのデータベースを作ろうと考えました。とはいっても、全国の酒蔵は1400軒弱もあるともいわれ、スタートアップのマンパワーで網羅するのは到底無理です。そこで考えたのが、どこかの地域に限定してデータを収集する方法です。日本酒のファンは地元のお酒を愛好する傾向があります。ある県の日本酒データを集中的に集めれば、その県内の飲食店や小売店に営業をかけやすくなるだろうと。
――全国に散らばる「点」を網羅するのは難しいので、一定規模の「面」を押さえ、効率を高めようということですね。
その通りです。国内や海外で広く展開していくためには、まずは一つの成功モデルを作ろうと考えました。そうすれば、他県の蔵元や酒造組合にも紹介しやすくなりますから。ただ、長野や新潟といった日本有数の酒どころだと、蔵数が多過ぎる。その意味で、ちょうどいい規模だったのが石川県でした。県内の酒造組合に加盟する蔵元は35軒、山廃(やまはい)という昔ながらの酒造りを受け継いでいるため、味わいがしっかりとしていて温度の変化も楽しめるタイプのお酒が多い。金沢は新幹線も通っていて観光地としての魅力も高いですし。何より県内に力を貸してくれる知り合いがいたことも、大きなポイントでした。
――とはいえ、「初めまして、サケロジーです」というところから始めなければならないわけですから、相当苦労されたのでは。
もちろん、最初はかなり苦戦しました。手始めに地銀や酒造組合に支援をお願いするなど奔走したのですが、蔵元に連絡しても全くアポが取れない。「登録は無料です」とお伝えしても、「料金を取られるんじゃないか」「他のサービスを売りつけてくるのでは」と怪しまれてしまって……。それでもめげずに商品を飲んだ感想を書いて送っては、ストーカーのようにしつこくお願いし続けました。担当者の作業が終わるまで、雪が降りしきる中で3時間待ち続けたこともあります。さらに、何とか信頼していただきたい一心で金沢にオフィスを構え、地元の人を採用しました。そしてついに、私自身も金沢に移住し、石川県人になりました(笑)。
――大阪在住でありながら、そこまで(笑)。まさに人生を懸けた挑戦ですね。
ところが、ある時から一気に流れが変わったんです。登録してくださる蔵元さんが次々と現れるようになりました。後から聞いたところ、蔵元さん同士で「おたくにはサケロジーさん来た?」「来たよ、登録した。大丈夫だよ」というやり取りがあって、評判が伝わったようなのです。一つの地域に集中するメリットを改めて実感しました。さらには2018年、石川県が主催するビジネスコンテストでファイナリストに残ったことも、信頼につながったのかもしれません。
石川県で活動スタートした2018年当時は県内銘柄はゼロでしたが、現在では県内ほぼすべての銘柄に登録いただいています。この石川県を含めた日本全国となれば、5500銘柄にまで到達しました。その豊富な日本酒データベースによって銘柄メニューを提供できるだけでなく、オススメ料理を紹介するペアリング機能も提供しています。
――移住から1年たったいま、石川発の事業としてはどんなサービスを展開していますか。
酒造組合や自治体のイベントなどを運営協力したり、ウェブサイトを作ったりと、幅広くサポートしています。例えば、石川県の蔵が参加し、昨年秋に石川県内で開催した「いしかわサケマルシェ」というイベントでは、QRコードを入れたカードを会場で配布し、出品されている銘柄の説明がすぐに閲覧できる特設ページをサケロジー内に用意しました。外国人も多く来場していましたが、スタッフによる英語対応の手間を大幅に削減でき、来場者の満足度向上に貢献できたと思います。
イベントは東京(丸の内ハウス)でも開催しました。現地の飲食店とコラボレーションし、各酒蔵の地酒とペアリングさせたオリジナルの一品料理を、サケロジーを介して外国人のお客さまにご案内しました。
また飲食店さんから、翻訳・ホームページ制作などのご相談をいただくことも増えましたね。幅広くインバウンド事業を助けてくれる会社という認識が広がっているようです。2019年6月には第三者割当増資と北國銀行からの融資で、4200万円を資金調達することができました。その資金は金沢オフィス創設だけでなく、石川県の酒蔵はもちろんのこと、全国の日本酒業界をますます盛り上げるさまざまな施策に投資していきたいと思います。