飲んだ瞬間の感動を
購入につなげる
――サケロジーのビジネスモデルで特に面白いのは、顧客と酒蔵という二つのネットワークを持っているところです。双方をつなぎながら、飲食店向けのメニューサービスを通して、最終的にエンドユーザーである訪日観光客や日本人来店客にサービスを提供している。つまり、「BtoBtoC」のビジネスを成立させています。
まさに日本酒に関わる全ての人を立場や国籍を越えてつなげ、世界中にファンを増やしていこうというのが私たちの目標です。そのためにいま、新しいサービスのリリースを進めています。それは、名付けて「さけろじ商店」。飲んだお酒を気に入ったら、その場でスマホから購入できるECサービスです。消費者は酒屋もしくは酒蔵に直接お酒を注文でき、自分の好きな場所を指定して配達してもらうことができます。当社が担当するのは、あくまで注文プラットフォームの提供とオンライン決済のみ。注文そのものは酒屋や酒蔵が受ける仕組みです。いまのところ試飲会などのイベントで実績を積んでいますが、近い将来には飲食店での銘柄メニューに「購入ボタン」を設けた新サービスとして拡充したいですね。おいしいと感じた時こそ、一番の買い時ですから。このシステムがあれば、いつどこにいても日本酒を買ってもらうことができます。
実はこの「さけろじ商店」は、ある酒屋さんのアドバイスから誕生しました。「いま何が一番課題ですか」とお聞きして回っていた時に、「飲食店で飲んだお客さんがその場で購入してくれたら助かる」との声がありまして。素人の私たちには思いつかないことを教えていただき、ありがたかったですね。イベントの開催などを通して蔵元や酒屋の方々と一緒に汗をかくうちに、おかげさまで味方になってくれる仲間がどんどん増えていきました。世界中にファンを増やすというビッグピクチャーを語るだけでなく、具体的な目標達成のために議論し協力してきたからこそ、いまの関係が築けたのだと思います。
――サケロジーのビジネスモデルは、インバウンドだけではなく、日本酒の世界普及としてアウトバウンドにもそのまま転用できます。グローバル展開も含め、将来に向けた「成長のロードマップ」があれば教えてください。
サケロジーの銘柄メニュー提供サービスはすでに香港のイベントでの実績があり、いつでも海外で利用できる体制になっています。ただ私たちとしては、まずは訪日された外国人のお客さまに日本酒のファンになってもらい、帰国後も長くそのお酒を楽しんでいただきたい。だからこそ「さけろじ商店」というECサービスも含め、「この酒屋、この蔵元で買えますよ」「この飲食店で飲めますよ」という情報の橋渡しをしっかりと行うことで、世界中に日本酒ファンを増やしていきたいと考えています。特に、香港やインドをはじめ、アジアには大きなチャンスがあると考えています。
――新型肺炎によるイベント自粛のムードは、やがて終息するでしょう。インバウンド経済のリカバリー後に向けていまどこまで準備しておくかが、今後の成功の鍵になると思います。昨年まではスタートアップバブルといえる状態でしたが、今年に入ってから海外ではスタートアップのリストラも始まっています。だからこそ、自分たちが何を成し遂げるのかという強い信念やビジョンが不可欠です。星野さんにとって、壁に直面している時はもちろん、生涯を通じて起業家が忘れてはならないことは何だとお考えですか。女性起業家としての矜持もぜひお聞かせください。
「自分への約束」としていつも心がけているのは、自分自身を信じて挑戦し続けることです。自分が信じられなくなったら、周りも不安になる。失敗したら、そこから学び、次は何に挑戦するのか。それを常に考えるようにしています。
また時々、女性起業家のビジネスはなかなかスケールしないといわれますが、全国展開はもちろん、グローバル展開は無理かといえば、絶対にそんなことはありません。アイデアと信念と人を巻き込む力があれば、絶対にやり抜ける。家族の許可を得ないといけないとか、子育てと両立できるかといった不安要素もあるかもしれませんが、「周りに応援してもらえる」環境を作れるかどうかが重要です。むしろ、いい意味で人に頼り、人を巻き込むコミュニケーションを心がけていれば、きっと乗り越えられます。私も小さな娘を連れて全国を飛び回り、あちこちでいろんな人の力を借りながら、なんとか仕事ができていますから(笑)。
――ちなみにサケロジーは、本社は大阪、開発は東京、事業は石川と、三つの拠点があります。なぜ一ヵ所に集約せずに、あえて多拠点展開をしているのでしょうか。また、創業の地に対するこだわりはありますか。
効率良く面を押さえ、実績を作るために石川で事業展開しましたが、開発拠点は最新テックの集積地である東京・渋谷がベストかと。でもやはり本拠地は、創業地である大阪以外考えられません。戦略というより、完全に愛着の問題ですね(笑)。
社長である私が日々各拠点を飛び回っているので、会議も作業もすべてオンラインで進められるよう環境を整えています。先ほど申し上げた通り、子育て中のママでもあるので、そうしないと私自身が仕事を続けられないからです。いっそのこと、キャンピングカーで生活しようかなと。娘を連れて全国どこにでも行けるし、おいしい日本酒を飲んだ後にすぐに泊まれますしね(笑)。
*当連載「GLOCAL HEROES」は、アメリカン・エキスプレスとダイヤモンド社との特別企画としてお届けしています。