都市のデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目される中で、モビリティーと都市開発が急接近している。3D(3次元)技術で自動車産業をはじめ、さまざまな業界の変革をサポートしてきたダッソー・システムズのギョーム・ジェロンドー氏と森脇明夫氏の2人に、モビリティーと都市の未来像と、その実現に必要な条件を聞いた。
モビリティーの概念そのものが変化している
――トヨタ自動車が「ウーブン・シティ」と呼ばれるコネクテッドシティーの開発計画を明らかにしました。自動車メーカーがモビリティーサービスを超えて、都市開発を手掛ける背景とは何でしょうか。
ダッソー・システムズ
自動車・輸送機械・モビリティー業界アジア担当
戦略的ビジネスデベロップメント日本担当 執行役員
ジェロンドー トヨタに限らず自動車メーカー各社は、製品を製造・販売する企業から、業界の垣根を越えて広くモビリティーサービスを提供する企業へと変革する必要性があることを理解しています。さらに今後は、サービスだけでなく、どのようなエクスペリエンス(体験)を提供できるかが、ユーザーから選択される基準となります。そうした環境変化が背景にあるのではないでしょうか。
自動車産業では「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化)と呼ばれる4つの領域で革新が同時進行しています。この革新の過程において、モビリティーは単なる移動や輸送のための手段ではなく、人間中心の新たなエクスペリエンスを提供するサービスへと概念そのものが大きく変化しつつあります。
例えば、日本では地方に高齢者が数多く住んでいます。車を運転できない高齢者は病院に行くのが大変ですから、医療設備を備えた車両が高齢者の元にやって来る方がはるかに良いエクスペリエンスを提供できます。仕事もそうです。会社に着く前に、自動運転車に乗ったらすぐに仕事を始められれば、時間を有効に活用できます。モビリティーの変革によって、人間中心の時間が生まれるのです。
都市には、オフィスや商業施設などさまざまな機能があり、それらを支える交通システム、エネルギーシステム、通信システムなどのインフラがあります。これらの独立した一つ一つのシステムが、相互に連携したり、協調したりすることによって、初めて新しいサービスや価値を市民に提供できるスマートシティーが実現されるわけです。
このように独立した複数のシステムを連携、協調させることで1つのシステムのように機能させることを目的としたものを「システム・オブ・システムズ」と呼びますが、モビリティーそのものが他のサービスと連携するシステム・オブ・システムズとなり、同時にスマートシティーという巨大なシステム・オブ・システムズを構成する1つのシステムともなります。そういう意味で、自動車メーカーがコネクテッドシティーの開発に乗り出すのは、自然な流れと言ってもいいでしょう。