また、私が行った企業の人事担当者への取材でも、コミュニケーション力を重視する声は非常に高く、人材にコミュニケーション力を求める傾向は多くの企業に及ぶことがわかりました。
その一方で、就活対策に励む学生は、プレゼンテーションスキルを磨くことやボランティア活動、学生団体の運営に精を出し、コミュニケーション力を育もうとしています。
これらのことから、採用する企業側も、採用される学生側も、「コミュニケーション力」に注目していることがわかります。しかし、そもそも両者(ここでは、企業と学生)が思い描く「コミュケーション力」には大きなギャップがあります。
コミュニケーション力アップへの学生の努力の実態として、例えばプレゼンスキル、交渉スキルの習得が挙げられます。商談をうまくまとめるために良いプレゼンテーションを行うことは必要です。さまざまな分野の人々と交流することは対人関係の構築に役立つでしょう。
しかし、プレゼンスキルはあくまでコミュニケーション力の一部でしかありません。ボランティアや部活の折衝ごとをクリアできれば、ビジネスの交渉がうまくいくわけではありません。
そういった違いをおそらく企業は肌感覚で察知しています。大学と企業を意図的に線引きする意味で、今回行った複数の企業への取材では、大学側のキャリア教育的な取り組み(就活に備えた疑似的な職業体験など)に対して懐疑的に捉えている企業の方もいるのではないかと感じました。
以下、そのような企業の声の例を交えてお話しします。
「企業としてもちろん即効性は求めますが、入口の段階でそれを求めるのは違うと思っています。例えば、プレゼン力やパソコンのスキルが優れているというよりは、自主性というようなものを学生の時にはしっかり準備して来てほしいと思います」(佐川急便 人事・安全企画部 井上氏)
大学で行われるような”コミュニケーション概論”では、次のような講義が行われるかもしれません。
「企業と大学(学生)の認識のギャップを埋めるために、“コミュニケーション力の定義”について、じっくり読み解いていきましょう――」
しかし、少なくとも実践性を志向する私の研究領域から見れば、概念的な言葉の定義から思考を始めるのはナンセンスです。そもそも「コミュケーション力」とは、さまざまな状況下で実際に取られる「行動」です。ここでは、企業が期待している行動の次元で議論を進めなければなりません。実際には、対人関係構築に役立ち、商談をうまくリードするという一連の活動を、一つひとつの行動に分解してみることが重要です。