富士通グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)支援企業Ridgelinez(リッジラインズ)は、同社初となる大型イベント「TRANSFORMATION SUMMIT 2020」を8月6〜7日の2日間にわたりオンラインで開催した。「日本ならではの新しいDXのカタチ」をテーマに行われた10のセッションのうち、本稿ではRidgelinez社長の今井俊哉氏がモデレーターを務めた2つのセッションのダイジェストをお届けする。

【スペシャルセッション】:
「変化」を生き抜く企業のあり方、人、組織、そして働き方

このスペシャルセッションでは、2010年に日本人として初めてネスレ日本の社長に就任し、20年3月末に退任するまで数々の変革を成し遂げてきた高岡浩三氏(現ケイ アンド カンパニー社長)と、日系企業の海外現地法人でマネジメントに携わった経験を持つRidgelinezプリンシパルの佐藤浩之氏をスピーカーに迎え、日本企業に必要とされる社内改革や組織のあり方、求められるリーダー像について議論した。

今井 最初に高岡さんからネスレ日本において、人や組織の変革をどのように進めてきたか、ご紹介いただけますか。

高岡 イノベーションや変革を起こすためにどうすればいいのかという質問をよく受けます。そのとき私は、「イノベーションや変革の本質的な意味をよく理解し、社長以下がみんなで共有しなくてはいけない」と答えています。

 そのためには、言葉の定義をはっきりさせることが出発点です。同じイノベーションや変革という言葉を使っていても、人によってその捉え方がバラバラでは、組織としてイノベーションや変革を起こすことはできないからです。

 私が考えるイノベーションの定義とは、「顧客が認識していない問題や諦めている問題を解決するもの」です。顧客が認識している問題を解決するのは「リノベーション」(改善)というのが、私の定義です。

 私たちはみんな顧客のために働いています。これは、営業やマーケティングの担当者だけではありません。人事部門なら社員や採用対象者が顧客だし、製造部門なら消費者や社内のブランド担当者が顧客、財務部門なら経営陣や投資家などが顧客です。

 そうした顧客の問題を紐解いて、これまでにないソリューションを提供する。それができて初めてイノベーションといえると私は考えています。顧客が抱える問題を紐解き、その解決策を構築するためには、「新しい現実を見ろ」とネスレ日本では言っていました。

 例えば、人事部門にとって重要な顧客は社員です。その社員を取り巻く新しい現実は、ITやAI(人工知能)によるデジタル革命、労働力人口の減少、人生100年時代、ワーク・ライフ・バランスなどいろいろ挙げられます。

ケイ アンド カンパニー社長の高岡浩三氏

 その新しい現実によってネスレ日本の社員が抱えていた問題として、ホワイトカラーの余剰、若年労働力の不足、女性の役員・管理職が少ないなどダイバーシティー(多様性)の低さ、介護不安などがありました。それらを解決するために実行したのが、ネスレ日本型のホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規定の適用免除)であり、アクティブシニアや女性マネジメント層など中途採用の多様化です。

 私は、多くの人が問題解決能力を持っていると思っています。逆に欠けているのが、問題を発見する力です。ネスレ日本の社員に問題を発見する能力を身に付けてほしいと思って2011年に始めたのが、「イノベーションアワード」という表彰制度です。顧客が気付いていない問題を考えて、自分で仮説を立て、実行し、検証する。つまり、自分でイノベーションのサイクルを回してみる。素晴らしい成果を上げた人には賞金を贈るという制度ですが、これを続けたことでいろいろなイノベーションが生まれるようになりました。

今井 日本では、コンサルティング業界ですらホワイトカラーエグゼンプションが進んでいない現状がありますが、ネスレ日本ではどのような成果がありましたか。

高岡 ネスレ日本型のホワイトカラーエグゼンプションでは、脱時間給の成果マネジメントを軸に、年功的給与や属人的手当を廃止し、ジョブディスクリプション(職務記述書)に基づく等級制度(同一労働同一賃金)を導入しました。

 また、時間と場所にとらわれない働き方ができるようにテレワークを推進し、そのためにテレビ会議設備などを拡充しました。ワーク・ライフ・バランスの点では、午後7時退社や5日連続有給休暇の制度を導入したり、社内託児施設を開設したりもしました。

 その結果、会社全体として労働生産性が向上し、2010年と19年を比べると、年間残業時間は92%減る一方、従業員1人当たりの営業利益は約2倍になりました。