デジタルによって顧客理解を深め、暗黙知を解放する

今井 マヨランさんは、GEデジタル・ジャパンの代表としてDXに取り組んできた経験をお持ちで、つい最近、三井住友銀行のデジタル戦略部に移籍されました。

マヨラン 自社のプロダクトをコモディティー化させないために、米ゼネラル・エレクトリック(GE)ではIoTやDXといった言葉が登場する前から、当時CEOだったジェフリー・イメルト氏が、データ活用による付加価値創出の重要性を唱えていました。外部の専門人材を雇い、シリコンバレーにCoE(センター・オブ・エクセレンス)を設立したのが2012年です。

 その頃、私はGEヘルスケアに在籍していて、日本の日野工場でCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像装置)の設計を担当していました。日野工場でもデータを活用して付加価値を創出しようということで、例えば、CTの納品リードタイムを減らす取り組みを始めました。

三井住友銀行デジタル戦略部のラジェーンドラ マヨラン氏

 CTのオーダーを受けてから納品するまでには、営業、設計、製造、ロジスティクスなどさまざまな部署の社員が関わります。ですから、クロスファンクショナルチームをつくって、オーナーシップや予算を持たせて、データに基づいて議論しながら納品リードタイムの短縮を実現しました。

 そういう活動をGEは世界中でやって、成功例はグローバルに展開していく。それを続けながら、データで価値を出すやり方が分かってきて、次のステップとして、お客様のデータを使って価値を提供していく活動を始めました。

 例えば、お客さまが使っているGE製のガスタービンの稼働データを取って、燃費効率を上げるにはどうしたらいいのかを考え、場合によっては新たな制御ソフトウェアを開発する。あるいは、GE製のエンジンを搭載している航空機のフライトデータを取って、最も燃費効率がいい運航計画を提案する。

 こうした提案は、新しいガスタービンやエンジンといったプロダクトを買ってもらうためではなく、ソフトウェアを中心とするソリューションを通じて、コスト削減や安全な運転といった価値をお客さまに提供するものです。つまり、プロダクトを売るのではなく、アウトカム(成果)を売る活動ですから、マインドセットを切り替えるのはすごく大変でした。

今井 アウトカムを売るというのは、われわれコンサルタントも同じです。Ridgelinezでトライしようとしているのは、お客さまのビジネスをこう変えると、これだけのアウトカムが出ますよということを客観的なデータに基づく仮説で示すこと。

 仮説はもちろん100%確実なものではないけれど、50%くらいの確度はありますから、実際にトライしてみませんかと。私たちはそういうアプローチで、お客さまのDXを後押ししていきたいと思っています。

マヨラン どんなアウトカムを出すかによって、必要なデータやそれを分析するための人材も変わってきます。

 例えば、エンジンというプロダクトを供給するだけなら、エンジンの稼働データさえ取っていれば良かったのですが、飛行機の燃費や運航の安全性を向上させることをアウトカムに設定すると、飛行ルートや気象状況、搭乗者数などのデータも組み合わせないとソリューションは出てこない。そうしたデータを取るためには、お客さまとの接点のあり方も変えなくてはなりません。

 ですから、DXによってオペレーションを効率化する、あるいは、新たなビジネスモデルを創出するといったゴールを設定したら、それを各フェーズにブレークダウンして、それぞれのアウトカムを決め、アクションプランを策定し、着実に実行していく必要があります。

今井 GEデジタルに在籍していたときには、三井住友銀行のDXを支援したこともありますね。

マヨラン はい。キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC、資金の回転率を表す指標)の見える化に取り組み、早期に債権を流動化できるソリューションを一緒に開発しました。

 このプロジェクトを進めるに当たって、三井住友銀行の人たちにインドのプネーという都市にあるGEの工場に来ていただき、そこでワークショップをやりました。そこはデジタル化のモデル工場で、受注、生産、在庫などのデータがソフトウェアで全て可視化されている。プネー工場からヒントを得て、製造業のサプライチェーンデータを活用し、銀行の取引先である製造業が売掛債権をどれくらいの期間で、どれくらいの割合で現金化できるかという予測モデルを作りました。

 GEデジタルと三井住友銀行が連携しながら、そのソリューションを製造業に採用してもらうように働き掛けたのですが、組織がサイロ化していて必要なデータが取れないとか、ある部署は賛成しても違う部署が反対するとか、DXでよくありがちな課題に直面しました。ある企業では、各部門を回って40回くらいミーティングを重ねて、説得したこともあります。

今井 私も経験がありますが、組織の一人一人にDXの意味合いや必然性を理解してもらうのは、とても大変ですよね。

マヨラン ですから、私がRidgelinezに期待しているのは、今井さんのように苦労してDXを推進してきた経験者が集まっているのだから、日本企業のDXの伴走者になって、データを活用してアウトカムを出すというマインドセットを植え付けていってほしいということです。

今井 最後にお二人の今後のチャレンジについて聞かせてください。

端羽 新規事業を創出する際に、世界中の企業が、お客さまのこと、さらにはお客さまにとってのお客さまのことをよく理解し、本当の意味での顧客起点のDXを実現するために不可欠なプラットフォームとして、ビザスクを発展させていきたいと思っています。

マヨラン 私は日本企業の優れた技術、優れたオペレーションを、アジアをはじめとした海外に展開したいと考えて、三井住友銀行に転職しました。暗黙知にとどまっている日本の優れた技術やノウハウをデジタルによって形式知化できれば、新たなビジネスチャンスが広がるはずです。

今井 デジタルによって顧客理解を深め、あるいは、暗黙知を解放することができれば、日本企業の競争力を高めることができる。お二人のお話からそれを確信することができました。私たちRidgelinezも伴走者として、それをお手伝いしていきたいと思っています。

 本日はどうもありがとうございました。

●問い合わせ先
Ridgelinez株式会社
https://www.ridgelinez.com