ボトムアップで
ブランドステートメントを策定
前田 日本では、経営統合したものの、社内融合が進まずシナジー効果を発揮できない失敗事例が少なくありません。まして、経営統合後に右肩上がりで成長を続けた事例は稀有でしょう。どうやって社内融合を進めたのですか。
日下 経営トップを含めて、社内融合を進める仕組みを意識的につくって取り組んできたことが大きいですね。全社の交流イベントを数多く企画し、出身地ごとの交流会もつくりました。出身会社は別でも、故郷の話で交流が深まり結束が固まるんです。夏には全員が集まるビアパーティーを開くのですが、そこには必ず経営陣も参加しています。
現時点でグループ会社を除く単体の従業員約1300人のうち、統合後に入社した社員がすでに4分の1を超えています。出身企業の壁を意識することはほぼなくなりました。統合から10年が経過し、今はさらに新たな企業カルチャーをつくるステージだと考えています。19年には、30代の社員が中心となって今後どういう会社にしていきたいかを議論し、若手主導のブランドステートメントを採択しました。ボトムアップで、新たな自分たちのアイデンティティーを確立することができたと思っています。23年には、経営理念も次の10年を意識した新たなものに見直せればと思っています。
前田 伝統的な名門企業の流れをくむ企業として、「お堅い」イメージがあったのですが、意外な柔軟性もお持ちなのですね。
日下 確かに堅いところはありますよ(笑)。ただ、当社は親会社の言いなりの「子会社」ではありません。
富士電機、古河電工両グループとの関係が深いというのは、強みではありますが、それだけに依存してしまうと立ち枯れてしまう。DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代、建設業界にも新しい競合は出てきています。それを常に意識して、富士電機や古河電工というIoTなどのデジタルど真ん中の事業をしているグループ企業をうまく「利用」して、エンジニアリング、設備工事などの部分を一緒にソリューションとして提供していきたいと考えています。
前田 安定性の面では名門企業としてのストックがあり、成長性の面では親会社のDXやIoT事業に関連するソリューションを新たな事業の柱として育てていく。こうした事業を支えるためには、継続的な人材育成が非常に重要となりますね。
日下 その通りです。当社ではエンジニアのキャリア形成に注力しており、技術系社員の約8割が「生涯エンジニア」として働き続けることができるのが大きな特徴です。
前田 一般的なメーカーでは、エンジニアとして入社しても中堅になると現場から外れて管理職になることが多い。生涯エンジニアとしてキャリアを歩むことができるのは大きな魅力だと思います。
日下 当社のエンジニアは、単なる「工事屋」ではなく、どんなに小さな現場でもプロジェクトリーダーとして企画・設計・施工・保守まで一貫したサービスを提供するやりがいのある職種です。そして仕事で最も重要なのは安全、品質です。これを徹底的に身に付けてもらうために、エンジニアの人たちには入社後1年間の研修を受けてもらいます。