「生涯エンジニア」を育成する
手厚い研修体制
日下 1年間の研修では3回の現場実習があり、海外で働くイメージを持ってもらうための海外研修もあります。われわれの仕事は自分一人でやれるものではなくて、多くの人をまとめてチームでプロジェクトを動かしていくことです。いかに人と協力しながら納期や品質を守るかという、プロジェクトリーダーとしての意識をしっかり持ってもらう教育をしています。
日下 1年間の研修ののち、配属先の希望を聞くのですが、最初の2年は見習い期間として設定しています。「まずは向いていると思った現場に行って仕事をしてみましょう」という感じですね。その間、細やかに状況を聞いて、ちょっと思っていたのとは違ったと感じたら、もう一度行き先を決めるチャンスがある。そうやってミスマッチが起きないようにしています。
前田 今は新入社員を「即戦力化」するために3カ月くらいの研修をやった後はOJTで、みたいな企業が多い中で、1年間の研修というのは驚きました。そこからさらに2年間の見習い期間がある。それだけの時間と手間をかけて、どのような人材を育成しようとしているのですか。
日下 課題やトラブルに直面したとき、一人で解決しようとせず、どこに何を聞けばいいか、誰を頼ればいいのかを知っているのが優れたプロジェクトリーダーであり、エンジニアです。そのような人材を私たちは育成しています。このために研修や見習い期間で、仕事のリスクとは何で、どこにあるのかを知り、人とのつながりを深めてもらっているのです。
そして入社してから5年の間に、全員が、小さい現場ではありますが、現場代理人というプロジェクトリーダーを必ず経験できるようにしています。20代後半で、ある程度の権限を持ち、さまざまなことにチャレンジできる。「丁稚奉公で何十年も下積み」という仕事ではありません。30代、40代、50 代とキャリアを積むに従って任される事業規模や、範囲が広がっていきます。まさに「一国一城の主」として、責任と権限を持って仕事をしているのです。
前田 新入社員育成の特徴としてもう一つ、新入社員は基本的に全員が寮に入る決まりだそうですね。地方出身者だけでなく、通勤圏内の人も全員入寮するのですか。
日下 そうです。全員が寮に入ると聞くと前時代的だと思われるかもしれませんが、女性や事務系社員が入る寮は武蔵小杉にあるおしゃれなワンルームのマンションで、評判はいいですよ。男性エンジニアが入る寮には共同の食堂もあって、バランスの良い食事を毎日取ることもできます。
この時代にあえて寮生活をしてもらっているのは、人とのつながりやチームワークの大切さを実体験してもらいたいからです。1年間共同生活する中で培われる同期の絆は、一生続く貴重な財産となります。
実際にこんな話がありました。入社3年目の社員が実家の都合で会社を辞めたいと言い出した。人事部で説得したのですがだめでした。そんなとき彼の力になったのが同期入社の社員たちでした。親身に相談に乗り、説得して、とうとう彼は退職を思いとどまったのです。