同調査では、企業が移転の候補地について重視する項目についても尋ねている。その結果を見ると、「本社・自社拠点との近接性・アクセス」が49.1%と最も高く、次いで「市場や取引企業への近接性」(42.7%)、「従業員の確保のしやすさ」(32.5%)と続く。
アクセスの良さに加えて、豊富な労働力も茨城県の強みの一つだ。県内には工業系高校が10校、産業技術専門学院が5校、大学が8校あり、工業系人材育成の基盤が整っている。また、つくばには最先端科学技術が集積し、世界トップレベルの研究拠点である産業技術総合研究所(AIST)など29の国などの研究・教育機関が立地し、研究者数も約2万人を数える。さらに県では県内立地企業の人材確保を支援するための説明会を多数開催しているほか、地元大学や研究機関との産学連携を推進している。
成長分野へ支援する優遇制度が充実、
平均地価が安価
茨城県が選ばれる理由には、県の優遇制度の充実もある。その核となっているのが、「本社機能移転強化促進補助」という優遇制度だ。これは、新たな成長分野(AI・IoT・ロボット・次世代自動車など)の本社機能・研究所の茨城県への移転を支援するもので、上限50億円という全国でもトップクラスの補助額を設定。補助率は、プロジェクトの内容や地域雇用、地域経済への波及効果などを総合的に審査して決定されるが、最大で施設設備投資額の30%の補助が可能となる。
本社機能移転関係の補助制度をスタートした18年度以降、これまでに16社の企業が認定を受けた。空調設備大手の高砂熱学工業(つくばみらい市)をはじめ、自然派商品や感染対策商品を製造するサラヤ(北茨城市)、自動運転システムの技術開発を行うヴァレオジャパン(つくば市)、リチウムイオン電池の研究開発を行う化学大手の積水化学工業(つくば市)など、すでに供用を開始している企業もある。
また、国の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」に連動した独自の上乗せ補助制度を全国に先駆けて創設しており、国の補助金の対象となる先進性の高い企業の移転等への支援体制も万全だ。
この他、県税の課税免除をはじめ、各種オフィス(賃貸用オフィスビル・サテライトオフィス・小規模オフィス)の整備・賃料に対する補助もあり、優遇制度はかなり充実している。
もう一つの特徴は、地価が安価であることだ。県内の工業地平均地価は2万500円/平方メートル。これは神奈川県の約5分の1、埼玉県の約3分の1の地価であり、首都圏100キロメートル圏内では格安な工業用地となっている※3。もともと茨城県は、県北部の山間部を除いて高低差の少ない平坦な地形であり、安定した気候もあって従業員も住みやすく、工場新設には適している。
18年には、県央地域を中心とする公共工業団地の価格の値下げ(2~5割)を実施したことで多数の企業が進出を決め、県内全域で引き合いが増加した。
こうした企業の立地ニーズに応えるため、茨城県では19年11月に「未来産業基盤強化プロジェクト」を立ち上げ、市町村の産業用地の新規開発を支援している。その内容は、開発の見通しがある案件を開発地区に選定し、事業化決定から造成事業着手までの期間を短縮するというもので、すでに2地区が選定を受けている。
帝国データバンクの本社移転企業調査(18年)によれば、1都3県からの転出先で最も多かったのは茨城県で39社(構成比13.7%)だった。開発が進む首都圏ではオフィス賃料が上昇し、まとまった土地の確保も難しくなっている。政府や自治体の優遇政策もあって企業の地方移転は増加傾向にあり、コロナ禍に伴うテレワーク導入で“脱東京”の動きも加速している。あらゆる面で、茨城県の企業立地の優位性が際立つ時代になりつつあるのだ。
※3 令和2年都道府県地価調査