アジャイル組織としての
米国海兵隊

野中:そうですね。米国はそうやって、さまざまな情報や知識を取り入れ、新たなコンセプトにまとめ上げる力に長けているのです。

 日本が米国に負けた太平洋戦争は「海をもって陸を叩く」という彼らのコンセプトの勝利に他なりませんでした。太平洋に点在する日本領の島を一つずつ奪取して飛行場をつくる。B-29が日本との間を往復できるマリワナ諸島を奪取した時点で勝負はついていたのです。さらに、島の奪取を可能にしたのが水陸両用作戦であり、これも戦争の新しいコンセプトです。

 その主役となったのが米国海兵隊でした。陸海空の戦力を統合した世界唯一の攻撃部隊で、軍隊としては規模が小さいのですが、現在、それでも18万人の隊員を擁しています。

 軍隊ですから、命令は厳格なトップダウンで下されるのですが、実戦では、権限委譲が行われ、現場のリーダーが機動的に判断・行動できる大きな力を与えられています。各隊員への任務命令も、「何をするか」「なぜやるか」だけを伝え、具体的な方法は各自に委ねています。

上條:アジャイル開発と似ていますね。

野中:そうなんです。そういう意味で、米国海兵隊の在り方は企業経営にも大きなヒントになるのです。大規模アジャイルといってよいでしょう。私はそれを知的機動力(knowledge maneuverability)と呼んでいます。

 変化が激しく、不確実性の高い状況下では、自社の置かれている市場の状況を詳細に分析し、あるべき戦略を導き出すというやり方ではうまくいきません。現実のただ中で、刻々と移り変わる状況を勘案しながら、リーダーが絶えず考え抜き、その時点でベストと思う施策をやり続け、おかしいと思ったらすぐに修正していく。その軌跡が戦略になる。状況は刻々変わりますから、動きの中で判断しなければならないのです。

上條:私たちが取り組んでいるエンタープライズアジャイルがまさにそうなのです。その目的は、ソフトウエア開発だけではなく、米国海兵隊のように、大組織の企業活動や事業活動そのものをアジャイルにすることなのです。ヒエラルキー組織にネットワーク組織を埋め込むといってもいいでしょう。

野中:それは大きな話ですね。どうやってやるのでしょう。