HMS
AIエッジ処理で
10兆円市場に挑む

HMS
胡 振程 代表取締役社長
hms-global.com/

 もう一つ紹介したいのはHMS。AIとエッジコンピューティング技術を駆使したAIスマートカメラ「SiNGRAY」(シングレイ)を主力製品とする企業だ。

 画像入力と処理を一体化した世界最速・最小クラスのAIカメラで、複雑な環境設定やチューニング、大量のサンプル画像や言語学習を必要としないのが特徴だ。その用途は、ロボットやドローン、スマート家電をはじめ、産業現場の自動化装置、外観検査・認識・計測装置など幅広い領域に及ぶ。手のひらに乗るほどの小さなサイズで、低コストでの提供を実現している。

 胡振程(フー ジェン チェン)社長は、熊本大学大学院自然科学研究科で博士号を取得、03年から同大学院の准教授としてAIと画像処理の研究を行っていた。その後、15年に中国で教え子たちと車載カメラモジュールのベンチャー企業を立ち上げ、社長兼工場長として働いた。「会社は3年間で売り上げ26億円になるまで成長したのですが、本来やりたかった革新的AIエッジ処理スマートデバイスの開発を行うため、18年に辞任してHMSを起業したのです」(胡社長)。起業の地として福岡市を選んだのは、もともと九州に馴染みがあり、アジアを向いた開放的な都市であったこと。FGNに入居したのは、市の手厚い支援に期待したからだ。

AIエッジ処理スマートデバイスの市場規模は、10兆円の巨大マーケット。ロボットやドローン、スマート家電をはじめ、産業現場の自動化装置、外観検査・認識・計測装置など幅広い領域に及ぶ
(出所:「2018Gartnerトップ戦略技術トレンド」を参考にHMSが算出)
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 現在の社員は24人。日本・中国・米国・フランスに居住する専門家とネットワークを組んで、最先端機器の設計・開発を行っている。

「FGNは、オフィス賃料を含めて最初の費用負担が安いことがありがたい。またFGNを通してスポンサー企業からの資金調達もできました。ここはスタートアップの集まりで若い人たちが多く、刺激をたくさんもらえています」と胡社長は言う。

 昨年10月には新製品として、世界最速クラスで自己位置推定とマッピングを同時処理できるVSLAM(=Visual Simultaneous Localization and Mapping)モジュールにAIを内蔵した軽量の新世代ARスマートグラスを開発、AIカメラとともに10兆円といわれる巨大市場に挑む。すでにキャリアも実績もある胡社長だが、旧大名小学校の教室を出発点に、再びシーズからの事業創造に意欲を燃やしている。