海外のDX(デジタル・トランスフォーメーション)先進企業の間では、ポストDXをにらんだ戦略が議論され始めている。そうした中、日本企業はどこに目標を定め、取り組んでいくべきなのか。数々のエクセレントカンパニーでマーケティング責任者を歴任し、2020年からはファミリーマートの初代CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務める足立光氏と、変革創出企業、Ridgelinez(リッジラインズ)CEOの今井俊哉氏が語り合った。
大切なのはDではなくX
リアルな痛みの先に変革がある
──ポストDX時代とは、デジタルによる変革が当たり前となり、変革が日々実践されている時代と考えられますが、そもそもDXの実践に取り組むうえで、どのような視点やスタンスが必要だとお考えでしょうか。
今井 DXという言葉が日本にも浸透してきたのは2010年代半ば以降ですが、そもそも私はD(デジタル)とX(トランスフォーメーション=変革)は分けて考えるべきだと思っています。DXと聞いて、デジタルを使えば変革が起きると思っている人が少なくありません。しかし、あくまでツールですから、それを用いてどう変わりたいのか、何を実現したいのかという目的がなければ役に立ちません。大切なのは、DではなくむしろX(変革)なのです。
とはいえXは、それまでの制度や仕組み、考え方を大きく変えるために痛みを伴います。そこにデジタルを活用すると、痛みや苦労を減らして変革を実現できるようになる。それがDXだと思うのです。「データドリブン経営」という言葉も同様です。これも経営者の中に「変革したい」という思いがなければ、いくらデータ活用基盤を整備しても何も変わらないでしょう。
一方、日本より早くDXの概念が浸透した欧米先進企業の間では、すでに「ポストDX」に向けた議論が始まっています。この大きな変化の中で、社歴重視の人事制度など従来型の組織を温存したまま、DXをどう推進したらよいのか迷っている場合ではありません。
足立 おっしゃるようにDXとは、「どう変わりたいか」という目的やゴールが先にあって、その実現のプロセスのどこをデジタルで分担したり加速したりするかという話なのです。また「変革」にはデジタルでなくてもできることが数多くあり、デジタルはあくまで変革を促進する要素の一つにすぎません。
「デジタルマーケティング」も同様です。B2BでもB2Cでも、実際のプロセスにはデジタルもリアルも混在しています。本来の「マーケティング」という目的を成し遂げるには、デジタルとリアルを俯瞰して見ることが大切なのです。
また、実際に変革を進めていくうえで重要なポイントは、組織は上(マネジメント層)からしか変わらないということです。リモートワークを導入しようとしても、上司が常にリアル会議を要求したら部下は断れないですよね。また、上司が常に紙の資料を要求したら、いつまでたってもペーパーレスにはなりません。これなども「デジタルだけ導入しても何も変わらない」という典型的な例の一つです。業務だけでなく組織そのものや働き方を変えるには、マネジメント層自身が、それを体現できる人に変わらなければなりません。
──日本企業が変革を進めるうえで、重要なポイントは何でしょうか。
今井 ポストDXに向けて企業が変わるためには、多くのケイパビリティの中から何が自社の強みと弱みなのかを再確認すると同時に、時代や環境の変化に合わせてそれをリポジションしていくフットワークのよさが必要ですね。それによって、「弱みを強みに転じる」可能性も出てきます。
足立 弱みを強みに変えるには、そもそも自社の弱みを正確に認識するところから始めなくてはなりません。さらに現在の強み・弱みに加えて、これからはどの部分を強くしていくのか、注力するポイントと、注力「しない」ポイントを選択しなくてはなりません。よくないのは、あれもこれも強くしたいと欲張ることです。限られたエネルギーやリソースをどこに「選択と集中」するかが大事です。