「ポストDX時代」へのカウントダウンが始まり、まだDXすら進んでいない企業は待ったなしの変革を迫られている。なかでも喫緊の課題となっているのは、最も重要な経営資源である社内人材が、いかに変革の担い手として力を発揮できる環境を整えるかだ。そのポイントについて、Ridgelinez CEOの今井俊哉氏が、アデコ取締役 ピープルバリュー本部長の土屋恵子氏、PwCコンサルティング パートナーの佐々木亮輔氏に聞いた。
守るべき存在だと思っていた
若手社員に教えられる
今井 いま、DXの必要性が盛んに叫ばれていますが、5年後には変革が日々当たり前に実践される「ポストDX時代」が到来すると私は見ています。まさに変革は待ったなしの状況であると同時に、「働くこと」への価値観も大きく変わってきています。新型コロナウイルスの感染拡大もそうした価値観に影響を与えていますが、アデコグループではこの変化をどのようにとらえていますか。
土屋 アデコグループは「働くこと」を中心とするサービスをグローバルで提供していますが、2015年頃から、経営陣を中心に「我々自身の働き方をどうすべきなのか」を真剣に考え、変革に取り組んできました。
人は1日8時間、人生の約3分の1の時間は働いていると考えると、「どう働くか」と「どう生きるか」はほぼ同義です。だとすると、なるべく時間や場所の制限なく、主体的に働いてもらえる環境を整えるべきだという結論にたどり着きました。
そこで、フルフレックスタイム勤務や(本業とは別の活動を行う)パラレルキャリア、テレワークなどの制度を整え、好きな時間・場所で働けるように取り組んできましたが、当初、社員自身がなかなか「変わろう」という気持ちになりませんでした。
「いままで全員が同じ場所で働いて成果を出せていたのに、誰もいないと心配だ」といった心理的抵抗があったからです。
取締役 ピープルバリュー本部長
土屋恵子 氏
ジョンソン・エンド・ジョンソン、GE(ゼネラル・エレクトリック)などを経て、2015年アデコに入社し、現職。20年以上にわたり、人事・人材育成部門の統括責任者として日本およびアジアの人材育成や組織開発、ビジョン浸透などの実務に携わる。2015年より現職。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学経営大学院組織開発修士課程修了。
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で、それまで30%ほどだったテレワークの定着率が90%まで上がり、働き方が一気に変わりました。しかも「安全・安心に働ける環境を事前に整えておいてくれた」と会社への信頼感が高まりました。
今井 経営陣が5年前から、あるべき「働き方」の仮説を立て、試行錯誤しながら制度づくりを進めてきた成果ですね。
土屋 もう一つ、新型コロナで浮き彫りになったのは、世代間の対応力のギャップです。
リーマンショックなどのさまざまな試練を経験してきた30代、40代は、今回の危機も何とか乗り越えようとする強さがあるのですが、社会人になって初めて試練を経験した20代は、とても不安を感じているようです。
その一方で、30代、40代のマネジャーが、若手の社員に救われている面もあります。ある営業のリーダーは、「新型コロナの影響で、営業活動が止まってしまった」と悩んでいました。長年対面の商談が当たり前だったリーダーにとって、お客様先へ足を運べないのは、羽をもぎ取られたようなものです。
ところが、若手が「チャットを試してみませんか」「ウェブ会議システムを使ってみたらどうですか」といろいろアイデアを出してくれたおかげで、何とかチームで営業活動を再開することができたそうです。
このリーダーは、「若手は、自分が守るべき大事な存在だと思っていたが、今回は逆に大切なことを教えてもらった」と感謝を口にしていました。価値観の転換や大きな学びがあったと思います。