【特別対談】ポストDX時代を見据えたピープルマネジメント

デジタルで人を管理するのではなく学びの環境を整え、成長を支援する

企業と個人の「働き方」に対する
価値観はマッチしているか

今井 佐々木さんに伺いますが、グローバルに見ると「働くこと」への意識は、ポストDX時代に向けてどのように変わろうとしているのでしょうか。

佐々木 5年ほど前に、PwCは英オックスフォード大学と共同で、働き方の未来予測「Workforce of the future 2030」というリポートを発表しました。「組織の統合化」と「組織の細分化」、「集団主義」と「個人主義」という、組織と個人の2つの軸で、4つのシナリオを描いたものです[図表1]。

「組織の統合化」とは、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)に象徴されるように、大企業がさらに巨大化することです。その顔ぶれは時代とともに変わりますが、市場のルールを自分たちでつくってしまうほど強い力を持つようになります。

 これに対し「組織の細分化」とは、専門性に秀でた組織が少人数の組織や個人のレベルにまで細分化していく現象です。日本でも個人事業主やフリーランスが増えていますが、デジタル化の進展とともに、その動きはますます加速するでしょう。

 一方で、「個人主義」か「集団主義」という個人の軸があります。最近で言えば、アメリカを二分した大統領選挙やイギリスの欧州連合離脱のように、自分たちの利益を第一に考える「個人主義」の動きは確実に広がっています。

 他方ではSDGs(持続可能な開発目標)のように、地球全体とか社会全体で物事をとらえる「集団主義」の勢いも強くなっています。

今井 2つの軸によって、働き方が4つに大別される可能性があるということですね。

佐々木 はい。4つのうちどの世界に帰属するかによって、働くことの意義やあり方は大きく変わってくると思います。

 たとえば、個人主義が強く、組織の統合化が進んだ企業は、社会的責任よりも自社の利益や個人の欲求が重視されるでしょう。

PwCコンサルティング
パートナー
(組織人事・チェンジマネジメント)
佐々木亮輔
20年以上にわたり日系グローバル企業の本社と海外拠点において、日本人および外国人経営幹部を巻き込む変革コンサルティングに従事。シンガポールとニューヨークでの駐在など海外経験が豊富で、日本だけでなく、アジアや欧米のベストプラクティスに精通している。タレントマネジメントやチェンジマネジメントに関する講演や寄稿も多数。

 これに対し、シリコンバレーのスタートアップのように個人主義ではあるけれど組織が細分化されている世界では、ルールづくりよりも自分たちのやりたいことを突き詰め、イノベーションを追求するような企業やスペシャリストが集まります。

 それと対極の集団主義で組織の統合化が進んだ企業は、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資をはじめ、ステークホルダーに対して、いかに社会的責任を果たしていくかが原動力のカギになります。

 また、集団主義で組織が細分化した世界では、ソーシャルアントレプレナーやNPOのように、志や価値観を同じくする人々が小さく集まって社会課題の解決に取り組んでいくといった働き方が求められます。

 4つのシナリオのいずれも、企業が持っている価値観と、個人が持っている価値観がいかにマッチするかということが大きなポイントだといえます。

 共有する価値観によって、人は「どう働きたいか」、企業は「どう働いてほしいか」ということが決まるわけです。

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